2016/09/11

【都市を語る】「地方の個性化」がこれからのテーマに ワークヴィジョンズ代表 西村浩氏


 情報化社会の進展によって、国内外のさまざまな事象、あらゆる問題が等号に直結する今日。価値観がより多様化していく中で、建築家の西村浩氏(ワークヴィジョンズ代表)は、「地方の個性化」がこれからの大きなテーマになると指摘する。世界とつながりながら、そこにしかない価値をいかに磨き上げていくか。単目的ではない、複眼的視点から多様な専門家が協働していく必要性とともに、人口減少と超高齢化という前例のない難問にも直面するわが国にあって、二者択一的な“奪い合い”に陥らないまちづくりを提唱する。
 かつて地方出身者にとって東京は「憧れの地」だった。「情報網が発達していないから、行ってみないと分からない。地方から見るとブラックボックスで、でもなにか輝いて見えた」。ところがいまはインターネットを介して「瞬時に世界中のどこでも様子を見ることが可能」だ。そうなると「あえて東京に行かなくてもいい」という状況が起こってくる。

◆2拠点のメリット、インフラ整え享受

 そこで提案するのが「2拠点での暮らし」だ。「人口が減る中で東京か地方かの選択を迫ることはお互いのプラスにならない。双方のメリットを享受しながら生活コストを下げていければ、新しい幸せのあり方が見つかるのではないか」という。
 そのためにも「重要なのは交通インフラ」と指摘する。自身、東京と佐賀にオフィスを置き、各地を駆けめぐる日々を過ごすだけに「移動コストが下がってくれば佐賀に住んで東京に通勤した方が圧倒的に生活コストは安くなる」と実感を込めて語る。
 他方、「いままで国の補助金、国のモデルに従ってまちづくりを進めてきた結果、全国すべての地方が同じ“地方都市”になった」と指摘し、「地方の個性化がこれからのテーマ」と提起する。
 「ホールがないから造ろうといった20世紀のやり方ではなく、ないことを価値として地方のあり方を考えるべきだ。新鮮な魚が捕れないから保存食をつくる文化が育まれたように、ないことがその地域の風土や個性だったりする。そこを磨き上げながら、もう一度地方らしさを取り戻していけば、地方独特の暮らしがそこだけの価値として享受できるはず」だと。

佐賀市の街なか(呉服元町)に誕生した「マチノシゴトバCOTOCO215」。
コンテナを使ったワークヴィジョンズの佐賀オフィスであり、カフェを併設した
シェアードワークプレイス、まちづくりの起点となる

 雇用の場をどう創出するかはいまも昔も地方の課題だが、「行政主導による企業誘致も結局は地域間の奪い合いになる」。そこで東京や大阪といった大都市圏に住む地方出身者の活用に目を向け、「その土地にゆかりのある人たちが地方のためにアイデアを発揮していけば、それぞれの地方で違う価値を持ち始める。地元に戻って起業したいというモチベーションが持てるような流れをつくっていくことが大事」だと説く。

◆柔軟性持って粘り強く継続

 いまハードが有り余る時代にあって、地方ではリノベーションまちづくりに取り組む事例も増えているが「あくまでも都市につなげていくという意識がないと効果がないし失敗する」と断言。だからこそ、「粘り強く継続して成功例をつくっていくことが必要」だと力を込める。

COTOCO215内に事務局を置く佐賀街なか再生会議が昨年
2度にわたって実施した「ひなのみせ―オープンシャッタープロジェクト」。
1カ月の期間限定で街なかの空き店舗のシャッターを一斉に開き、「将来的に街なかで
活動の場がほしいと思っている、まちのプレーヤー予備軍」(西村氏)を募集してマッチング
させる社会実験は、街の雰囲気を劇的に変えた

 自分事としてまちのことを考えていく。その時にスタイルは自由だ。状況に応じて方法を使い分ける選択肢があっていい。大事なことは「柔軟性を持つこと。時代が変われば方法も変わる。その時々でベストの方法を考える習慣をつけることが価値観の変わっていく時代の生き延び方ではないか」と見通す。
 専門家に対しては「自分の専門の課題を解決すればいいという単目的では人口が減少し高齢化していく時に、社会の課題は解決できない」と切り込み、「専門家を横につないで俯瞰(ふかん)できる人材をどう育成していくか」が重要と語る。行政にも「従来の縦割り編成ではなく、このエリアはすべての問題を担うという観点で分けたらどうか」と提言。「課をつくらなくても一週間に一度でもいい、単目的ではなく複眼的な視点で一つのエリアを見てみる。そうすると新しい発想が出てくる」と語る。「発想の転換をする、見方を変えること。それがイノベーション」であり、「そこにビジネスチャンスが広がっているはず」だとも。
 いま東京では都心開発が活発化している。だがその姿は、「日本の地方都市の集合体のように見えてくる」という。人口減少社会へと向かう中で「それぞれの個性化をどうしていくかが東京であってもこれからの問題となる。要はそこでしか得られない体験をどう提供していくか。シーンではなくシークエンス、時間軸を伴ったデザインをどうできるか。それが生き残るかぎではないか」
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【南極越冬隊】「26人を生きて帰す」設営主任の重責担う 関電工・加藤直樹さん  関電工の加藤直樹さん(東関東営業本部千葉支社)が、第56次南極地域観測隊越冬隊の任務を終えて帰国した。第48次に続き2回目となる今回は、観測と設営の2つのグループのうち、設営のトップとなる主任を務めた。「火事が起きようが、停電になろうが、次の船『しらせ』が来るまで生きて帰さないといけない。人の命を預かる総括的な立場のため、行く前はプレッシャーで、1週間くらい寝られないこともあった」と明かす。  初めての参加は、2006年11月からの越冬… Read More
  • 【インタビュー】グリーン(自然)とグレー(コンクリート)は融合するか 大阪府立大・増田昇教授に聞く  近年、自然生態系がもつ多面的機能を利用した社会資本整備などを行うグリーンインフラストラクチャー(グリーンインフラ)という概念が注目されている。グレーインフラ(コンクリート構造物)の整備を担ってきた建設業界には、グリーンインフラの分野でも活躍することが求められており、グレーとグリーンのインフラをうまく融合させることができれば、これまで以上の整備効果を得ることも可能となる。大阪府立大大学院の増田昇教授に大阪におけるグリーンインフラの可能性な… Read More
  • 【インタビュー】建築学会作品部門受賞者に聞く 『流山おおたかの森小・中学校』等の小嶋一浩さん、赤松佳珠子氏さん  新たに誕生したまちで、住民のよりどころとなる場所をどう生み出すのか。CAt(シーラカンス&アソシエイツ)の小嶋一浩氏と赤松佳珠子氏は、住宅地として急速に発展するまちにつくられた小中併設校「流山市立おおたかの森小・中学校、おおたかの森センター、こども図書館」でその課題に対する1つの回答を示した。地域に根ざした公共建築として、審査員から「学校建築を語る上で常に参照され、また語り継がれていく建物」と高い評価を受けた同施設をどう設計したのか。公… Read More
  • 【インタビュー】建築学会作品部門受賞者に聞く 『竹林寺納骨堂』の堀部安嗣さん  「強いテーマ性を持った建築はナンセンスだ」。『竹林寺納骨堂』(高知市)で学会賞作品部門を受賞した建築家の堀部安嗣氏(堀部安嗣建築設計事務所)は、自らの設計姿勢をこう表現する。 重視するのは「無力さの上に立った創造」だ。これまでにない素晴らしい建築をつくりたいという建築家としての欲望には理解を示しつつも、成熟社会では「既にあるものをさらに成熟させる役割も非常に重要だ」と強調する。  その上で、「これまで建築家は課題をどう解決し、世界を… Read More
  • 【実録】社長交代の戸田建設 井上社長と今井次期社長の一問一答  6月下旬に退任する戸田建設の井上舜三社長、社長に就任する今井雅則常務執行役員大阪支店長は12日、同社本社で会見した。要旨は次のとおり。 ◇役員人事  井上社長 「来期以降の採算回復に向けて一定の道筋は付けられた。今後、このような取り組みの成果をスピーディーかつ確実なものにするためには、来期より新体制の下、再スタートを切ることが重要と判断し、昨年の10月以降、後任の選定を進めてきた。当社の最大の課題は、主力の建築部門を早急に立て直す… Read More

0 コメント :

コメントを投稿