情報化社会の進展によって、国内外のさまざまな事象、あらゆる問題が等号に直結する今日。価値観がより多様化していく中で、建築家の西村浩氏(ワークヴィジョンズ代表)は、「地方の個性化」がこれからの大きなテーマになると指摘する。世界とつながりながら、そこにしかない価値をいかに磨き上げていくか。単目的ではない、複眼的視点から多様な専門家が協働していく必要性とともに、人口減少と超高齢化という前例のない難問にも直面するわが国にあって、二者択一的な“奪い合い”に陥らないまちづくりを提唱する。
かつて地方出身者にとって東京は「憧れの地」だった。「情報網が発達していないから、行ってみないと分からない。地方から見るとブラックボックスで、でもなにか輝いて見えた」。ところがいまはインターネットを介して「瞬時に世界中のどこでも様子を見ることが可能」だ。そうなると「あえて東京に行かなくてもいい」という状況が起こってくる。
◆2拠点のメリット、インフラ整え享受
そこで提案するのが「2拠点での暮らし」だ。「人口が減る中で東京か地方かの選択を迫ることはお互いのプラスにならない。双方のメリットを享受しながら生活コストを下げていければ、新しい幸せのあり方が見つかるのではないか」という。
そのためにも「重要なのは交通インフラ」と指摘する。自身、東京と佐賀にオフィスを置き、各地を駆けめぐる日々を過ごすだけに「移動コストが下がってくれば佐賀に住んで東京に通勤した方が圧倒的に生活コストは安くなる」と実感を込めて語る。
他方、「いままで国の補助金、国のモデルに従ってまちづくりを進めてきた結果、全国すべての地方が同じ“地方都市”になった」と指摘し、「地方の個性化がこれからのテーマ」と提起する。
「ホールがないから造ろうといった20世紀のやり方ではなく、ないことを価値として地方のあり方を考えるべきだ。新鮮な魚が捕れないから保存食をつくる文化が育まれたように、ないことがその地域の風土や個性だったりする。そこを磨き上げながら、もう一度地方らしさを取り戻していけば、地方独特の暮らしがそこだけの価値として享受できるはず」だと。
佐賀市の街なか(呉服元町)に誕生した「マチノシゴトバCOTOCO215」。 コンテナを使ったワークヴィジョンズの佐賀オフィスであり、カフェを併設した シェアードワークプレイス、まちづくりの起点となる |
雇用の場をどう創出するかはいまも昔も地方の課題だが、「行政主導による企業誘致も結局は地域間の奪い合いになる」。そこで東京や大阪といった大都市圏に住む地方出身者の活用に目を向け、「その土地にゆかりのある人たちが地方のためにアイデアを発揮していけば、それぞれの地方で違う価値を持ち始める。地元に戻って起業したいというモチベーションが持てるような流れをつくっていくことが大事」だと説く。
◆柔軟性持って粘り強く継続
いまハードが有り余る時代にあって、地方ではリノベーションまちづくりに取り組む事例も増えているが「あくまでも都市につなげていくという意識がないと効果がないし失敗する」と断言。だからこそ、「粘り強く継続して成功例をつくっていくことが必要」だと力を込める。
COTOCO215内に事務局を置く佐賀街なか再生会議が昨年 2度にわたって実施した「ひなのみせ―オープンシャッタープロジェクト」。 1カ月の期間限定で街なかの空き店舗のシャッターを一斉に開き、「将来的に街なかで 活動の場がほしいと思っている、まちのプレーヤー予備軍」(西村氏)を募集してマッチング させる社会実験は、街の雰囲気を劇的に変えた |
自分事としてまちのことを考えていく。その時にスタイルは自由だ。状況に応じて方法を使い分ける選択肢があっていい。大事なことは「柔軟性を持つこと。時代が変われば方法も変わる。その時々でベストの方法を考える習慣をつけることが価値観の変わっていく時代の生き延び方ではないか」と見通す。
専門家に対しては「自分の専門の課題を解決すればいいという単目的では人口が減少し高齢化していく時に、社会の課題は解決できない」と切り込み、「専門家を横につないで俯瞰(ふかん)できる人材をどう育成していくか」が重要と語る。行政にも「従来の縦割り編成ではなく、このエリアはすべての問題を担うという観点で分けたらどうか」と提言。「課をつくらなくても一週間に一度でもいい、単目的ではなく複眼的な視点で一つのエリアを見てみる。そうすると新しい発想が出てくる」と語る。「発想の転換をする、見方を変えること。それがイノベーション」であり、「そこにビジネスチャンスが広がっているはず」だとも。
いま東京では都心開発が活発化している。だがその姿は、「日本の地方都市の集合体のように見えてくる」という。人口減少社会へと向かう中で「それぞれの個性化をどうしていくかが東京であってもこれからの問題となる。要はそこでしか得られない体験をどう提供していくか。シーンではなくシークエンス、時間軸を伴ったデザインをどうできるか。それが生き残るかぎではないか」
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