これから建築が果たしていく役割とは何か--。2016年度日本建築学会大会(九州)のメーン行事である大会シンポジウム「みんなの建築」で繰り広げられた討論は、人口が減少していく時代に公共建築や建築家がどう向き合うべきかを厳しく問いかける場ともなった。写真は左から末廣香織氏、伊東豊雄氏、山崎亮氏
基調講演した建築家の伊東豊雄氏が「どうやったら人が集まる居心地の良い場所をつくれるか」と提起したことに、「営業なくして田舎に人は来ない」と強烈なカウンターパンチを繰り出したのは、岩手県紫波町で公民連携による「オガールプロジェクト」を推進するSPC(特定目的会社)のオガールプラザ代表を務める岡崎正信氏。
岡崎正信氏(左)と木下斉氏 |
長年塩漬けとなっていた駅前の町有地に図書館を中心とした官民複合施設のオガールプラザやバレーボール専用体育館を備えたオガールベース、さらにオガール広場などを整備・運営し「稼ぐインフラ」として地域活性化に貢献。人口3万3000人の町にいま年間94万人が訪れる。「しっかり稼いでしっかりと納税し、それをいかに町民に還元していくか。それがわれわれの果たす公益性」だと明言する。
建築家に対しては「PL(損益計算書)、BS(貸借対照表)、CF(キャッシュフロー計算書)の財務諸表を念頭に置いた建築計画をもっと提案すべき」だと提言。「エネルギー」への提案にも期待を寄せる。「紫波町は1万世帯で年間30億円のエネルギー費がキャッシュアウトしている。エネルギー効率をもっと高めれば、町に、日本国内に残るお金は増える」わけだ。
各地で地域の再生に携わるエリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏も「維持管理から逆算して事業を考えないと地域の活性化ではなく衰退を招く」と指摘する。公共サービスを持続的に支えるためには「ボランティアだけではもたない。経済原理が成り立つ部分、稼ぐ機能が必要」だと。
「建築教育の見直し」にも言及。「若い人は学校のカリキュラムと現実社会との違和感を敏感に感じている」とし、「例えばいま早稲田の付属高から建築学科に進む学生は定員割れしている。若者から将来の選択肢として見限られていることをきちんと認識した方がいい」と舌鋒鋭く迫る。
これに対し、伊東氏は「決して経済だけで成り立つのではない。ものの持っている質は確実にある」と反論しつつ、「公共建築のつくり方、プログラムのつくり方にしてもすべてに20世紀的であることが問題。建築教育の問題もそこにある」と指摘。さらに「いま均質的なものを求める考えが絶望的なぐらい日本中を覆っている。ここを変えていくチャレンジをしなければ日本は元気にならない」との認識を示した。
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