横浜市南区総合庁舎移転新築工事は、建築3工区を始め、設備などを含めた計16事業体が1つの敷地を分け合う横浜市の公共工事でも希有な建設工事だった。複雑な作業環境を克服し、工期内に無事完成させた施工者を代表して建築の3所長に現場の取り組みや施工の特徴などを聞いた。
--現場内の連携構築は難しかったですか
第1工区建築工事作業所長(大成JV)依田篤士氏 |
依田 まずはコミュニケーションを良くするためには何をすべきか考えた。MCFC(南区総合庁舎コンストラクション・ファンクラブ)をつくり、2カ月に1回ぐらい施工者で懇親を深めた。この人間関係が基本となって工程調整などで自然発生的に人が集まるようになり活発化していった。
当初は空いていた3工区の有効活用や、近隣対応の円滑化に向けた近隣相談室の提案が実現し、住民から一定の信頼感が得られたと思う。特に相談室は担当者の人間性が大きかった。トラブルが発生しても迅速に対応できるチームが構成できていたと思う。これらに関しては、市役所関係部署の方々のご理解あってのことであると考えている。
第1工区(中央・区役所、右奥・公会堂) |
大塚 1工区より遅れて乗り込み、近隣相談室などの線引きの上で作業を開始したのでスムーズに仕事を始められた。近隣相談室に窓口が一本化したことで住民の理解も深まり、良い成果を挙げられた。本当に良いアイデアだったと思う。
和泉 工事の流れ、近隣対応は、1工区、2工区の両所長がつくってくれていたので円滑に作業に入ることができた。3工区は工事ヤードに余裕がなく、目一杯の敷地条件の中で建設しなければならず、ラフターの配置、機械や資材などの搬入作業なども緻密な工程計画を練らなければならなかった。ただ近隣に迷惑をかける部分は、相談室が対応してくれたので本当に良かった。
大塚 2工区は正面に空間があり作業しやすかったが、1工区も意外に厳しかったのでは。
第2工区(消防署) |
依田 確かに去年(2014年)は良かった。何かあれば3工区の敷地が使えた。そういう意味で最後の最後に入ってきた3工区の施工環境に関しては圧迫感が大きく、大変だったと思う。
◆何がベストかを選択
--品質を担保するために取り組んだことは
依田 震災復興関連工事や東京五輪関係事業への期待感に端を発し、労務事情が悪かったのは間違いない。その点については、工程の組み換えなどの工夫で何とか乗り切った。ほかにも構造的に特殊な免震構造やCFT構造に関して、要求品質を保つために、弊社の技術部門と連携しながら進めた。外壁デザインも特徴的な反面、納まりが複雑であるため、漏水事故につながらないように細心の注意を払って施工した。
また、わたしにとって16年ぶりの公共工事だったためか定例会議の回数には驚いた。16事業体約40人が出席したが、関係者が一堂に会することで全体の情報が整理・把握しやすかった。人数が多い会議のため時間や資源を節約できるように施工者情報をMCFCで構築した共有サーバーにアップロードし、当日もプロジェクターを使って説明するなど無駄を排除するよう心掛けた。
第3工区(1階・土木事務所、2階~屋上・駐車場) |
大塚 定例会議の回数は公共工事として一般的だったと思う。民間に比べれば多い。
2工区はV字型の柱が特徴になる。構造躯体でありながら意匠的にも重要なので、当初の作業計画の中でも重点管理項目にした。柱の工事に着手するまでの9カ月間いろいろ考えたが、最終的には非常にオーソドックスに施工した。品質を確保しながら意匠をつくり上げていく中で何がベストかを選択して良い結果を生み出せた。わたし以上に現場の担当者は苦労したと思う。
斜めの部位のコンクリート打設は非常に品質管理が難しい。階高もあったので上下2回に分けて打設することは選択肢から外せなかった。V型の柱の鉄筋ができた時には、非常に目立っていたので、現場の各社も気にしていたかもしれない。
消防車庫(消防署) |
依田 やはり注目していた。「躯体の下側の型枠を先行するのか否か」などと皆で話していました。間近に見られるわけではなかったので、遠くから眺めてV字型の鉄筋が立ち上がってきた時には、1工区内でもかなり話題になっていた。
第3工区建築工事作業所長(渡辺JV)和泉徹氏 |
和泉 3工区はシンプルな建築物なので、品質管理面で大きな障害はなかった。やはり工程には厳しいものがあり、無事完成を迎えられて安堵(あんど)している。
--総合庁舎にはあらゆる機能が入る。施工にあたり配慮したことは
依田 エンドユーザーがたくさん存在するので幅広い配慮が必要だった。今後建物を使用する来庁者や、南区、消防署、土木事務所で働く職員の方々がわれわれ施工側には見えないので、定例会議で横浜市の担当者を始めとする建設関係者や設計者を交え、われわれの経験を総動員して試行錯誤する必要があり、そのあたりが非常に大変だった。
エントランス(区役所) |
大塚 老人ホームやマンションであれば、エンドユーザーが絞れるが、公共施設は多岐にわたるので難しい。2工区の一部は消防署という用途であり使用者を絞ることができたが、特殊な設備が多く分からないことも多かった。
執務スペース(土木事務所) |
和泉 3工区も同じだった。1階の用途が土木事務所なので、建設会社などに来所者が限られる。事務職員の使い勝手、区役所と連動する部分の仕上げなど、いろいろと考えた。
◆躯体の仕上がり披露
--美化活動や緑化、見学会などイメージアップ活動に積極的に取り組みましたね
依田 建設関係の人口が減少する中で、われわれの仕事を一般に広くアピールすることは将来への種になると考えた。昔は鳶(とび)さんが足場を組み、大工さんがひょいと高い所に昇り、鉋(かんな)で木材を削る姿が街中にあった。それを子どもたちが見て、憧れを抱き、仕事に就きたいというような気持ちが芽生えたと思う。今は、ほこりの飛散や騒音など近隣に迷惑をかけないように高い仮囲いを設ける。工事は安定的に進むが、内部の様子が分からなくなり、子どもたちに刺激を与える機会が減少してしまった。
そこで近隣の小学校と連携した見学会を催し、興味を持ってもらおうとした。加えて仮囲いの一部を透明にして中を見えるようにした。ハンドウエーブ運動と称して現場内の作業員たちには極力、手を振るようにお願いした。これまで失われていた仮囲いの内外でのコミュニケーションが少なからず実現でき、作業員は見られている意識が生まれ、良いものをつくろうとする見せる側の意識を育むこともできたと思う。工事期間という短い間の試みだったが建設産業を志す子どもが1人でも増えてくれればうれしい。
公会堂(区役所) |
大塚 わたしは離職者が多い職人さんたちに、ものづくりの楽しさ、魅力を伝えられるように、躯体業者の職長を集め、自らがつくった躯体がどのように仕上がったかを見せる見学会を開いた。どうしても分業制なので躯体業者は仕上げをほとんど見ることはないが、最終的な仕上げの状態を知ってもらうことにより自分の仕事のレベルアップになることを期待したい。
和泉 遅れて始まった3工区は自分の現場だけで目一杯だったので、皆さんのように大々的な活動をできなかったのが残念だった。3工区は12月末の段階でも安全に中に入れるスペースが少なく、作業風景を見せたいと、いろいろと考えてはいたが、結局果たせなかった。私だけかもしれないが、現場の足場がとれた時、初めて建物の姿形があらわになると感動する。建物の内部も公共施設なので区民は普通に入れるが、一般的な建物は使う人しか分からない。一般の人々も建物内部に興味を持つ人がいるので、本当は内部を見て建築に興味を持ってもらいたかったのだが、安全面を考慮すると難しかった。
第2工区建築工事作業所長(馬淵JV)大塚幸司氏 |
大塚 やはり普段、区民の方が訪れるスペースではなく、その裏側を見せたいという気持ちは、わたしにもある。そこには、つくっている側として面白い部分が多々ある。
依田 見る側にとっても普段入れない場所に入るという優越感が生まれるはずなので興味も湧きやすい。
◆主張し上手に折り合い
--複雑な環境の工事をやり遂げた感想は
依田 私はここが所長として初めての現場だった。これまで所長になったら実践することをいろいろと思いを巡らせていたが、この現場で実際に取り組み、順調な部分、課題が残ったことなど、フラッシュバックすることがある。
建物が供用開始して5年、10年が経過し、施設を使っている人に建物を褒められたら、とてもうれしい気持ちになるだろう。後になって思い返して頑張って良かったと思えるような建物をつくっていきたい。この現場を担当できて本当に良かった。
カウンター(区役所) |
大塚 着工時に依田所長が3工区の敷地を互いに使い合おうと提案され、良い条件が整えられてスムーズにスタートが切れた。所長には本当に感謝している。
当初考えていた工程の中で、ボリュームの大きな仕事を先行することと、受電の工程を間に合わせることの2つをイメージどおりに進めることができた。その中には1工区と絡んで互いの作業が影響し合う部分が多くあったが、良く調整してスムーズに進めることができたと思っている。そこでも和気藹々(あいあい)ではなく、互いに主張すべき部分は主張しながら、上手に折り合いを付けられたと感じている。多くの事業体が入った現場の中でも、なお一層特殊だったと思う。
消防訓練室(消防署) |
和泉 これだけの業者数がいて、作業が重なり、調整して互いの工程を乱さないようにするのは大変だったが、他社の仕事を見られたことは非常に有意義だった。定例会議の前は必ず他工区の現場を視察する。ここで他社の仕事、納まり状態や現場の活動状況など良い点を見ると写真を撮り、自分の現場に取り入れた。3工区は最後に現場に入ったので、特に納まりの部分は他の工区に合わせていく必要がある。1工区と2工区は構造的につながるが、3工区は分離しながらも1工区とは渡り廊下でつながる。そういった部分で有効に活用できた。
大塚 特殊な現場であったが、ここでの出会いも何かの縁、いつかまた、近くで現場をやる機会があれば、ゆっくりと話をしたい。
和泉 その時はこの現場のような関係をお願いしたい。
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