2016/02/28

【インタビュー】公共建築にカジュアルさと地域の魂を JIA新人賞の柳澤 潤氏


 2010年に竣工した長野県塩尻市の市民交流センター「えんぱーく」が、15年度JIA新人賞に選ばれた。設計を担当したコンテンポラリーズの柳澤潤氏は、完成から5年を経て新人賞に応募した理由について「公共建築の価値は、実際に市民に使われなければ分からない」と語る。人口約6万7000人の都市でありながら、年間約60万人の利用者が訪れるという「えんぱーく」は、どのように市民のコミュニティーを形成したのか。柳澤氏に聞いた。

 「何もないところで『場』をつくることはできない。空間を囲みながら開く、強さと柔らかさを同居させる必要があった」。「えんぱーく」は図書館を中心に子育て支援センターやハローワークなどの機能を持つ多機能型の市民交流センターだ。全体の40%以上がフリースペースとなっており、市民が自由に活動できる環境を整えた。「部屋と部屋を廊下でつなぐのではなく、交流スペースによって機能と機能をつなぐ」ことを特に意識したという。「これまでの公共建築は目的を持って訪れた市民にサービスを提供していた。しかし、これからは散歩の途中に目的のない人も訪れることができるカジュアルさが求められている」と考える。

施工中(写真提供:コンテンポラリーズ)

 市民が気軽に立ち寄れる公共施設にするため、設計に際しては「壁柱」という薄い板状の構造体97本を建てて空間の連続性と機能の分節化を同時に実現した。「重い壁に囲まれていては身動きがしづらいが、薄い間仕切りによって軽快な建築にすれば、人の動きも軽くなり、市民の活動を引き起こすきっかけになる」とその意図を明かす。
 市民の当事者意識を喚起するため、市民参加型のワークショップを繰り返し開き、住民から地域のアイデンティティーを引き出してきた。そこには「自分たちの建築であるという意識がなければ公共建築は『はこもの』と批判される。自分たちでその建築について考え、5年10年と使うことでその建築には魂が宿っていく」という信念がある。「 公共建築において重要なのは記念碑的なシンボルをつくることではない。地域のアイデンティティーにふさわしい建築にすることだ 」と力強く語る。

内観(写真提供:コンテンポラリーズ)

 現在の「えんぱーく」では、図書館や子ども支援といった本来の機能だけではなく、結婚式やコンサート、お祭りなど、さまざまな活動が市民や周辺地域と一体となって展開されている。「土地のアイデンティティーと『えんぱーく』が合流しているように感じる」という。「公共建築は完成によってプロジェクトが終了するのではなく、市民に使い続けられることでその価値が変化する。これからは行政だけでなく、民間の力も生かした魅力的な公共建築になってほしい」と期待は大きい。
 完成から5年が経ち、施設を利用する若い世代も増えている。東工大で教鞭をとる柳澤氏の下には「えんぱーく」で受験勉強に励んだ学生が訪ねてきたことも。「市民活動により公共建築は地域のシンボルとなる。ここで育った人たちに活躍してほしい」と目を細める。
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