LIXIL主催の伊東豊雄展「空気をデザインする-みんなの森 ぎふメディアコスモス」の一環で、伊東氏とアーティストの日比野克彦氏が対談した。昨年7月に岐阜市にオープンした、図書館をメーンとした複合施設の使われ方を通じてこれからの建築のあり方を議論。この中で、環境への配慮に加え、特定の使い方だけでなく、地域住民の自由な活動を支援する公共建築の必要性を強調した。
メディアコスモスは壁のない広いフロアで市民が自由に過ごせるのが特徴だ。伊東氏は「建物の中を細かく区切って温度管理するのは原始的だ。日本的な省エネとは言えない」と考え、「内と外が連続した古来の木造家屋のように、施設の内外を連続させる」ことをイメージしたという。
構想段階から冷暖房設備については自然エネルギーを最大限利用することを計画していた。
開架閲覧エリア (c)Kai Nakamura |
具体的には地下水を利用し、床から冷気や暖気が立ち上り、館内を循環する流れを作り出した。夏は暖かい空気を最頂部の開口から排気し、冬は閉じて循環させる仕組みだ。この循環をより効果的にするのが、天井から吊り下げた半円形の『グローブ』だ。大小11個あるこのオブジェは、空気の流れに沿ってデザインした。
もう1つの特徴は波打った形の木組みの屋根だ。当初、伊東氏は「コンクリートのフラットな屋根を考えていた」が、天井を木組みにし、うねりを連続させれば、空気の流れがよくなると考え、2cm厚の平板を互い違いに重ね合わせる曲面屋根を採用した。素材には地元産のヒノキを使用した。
湿り気のない緩やかな風を感じると、少し室温が高くても心地よさが持続する。
メディアコスモスのオープン初日は夏休みであったため、多くの人が詰めかけたが、「緩やかな空気の流れは有効だった」と再認識した。
グローブには思わぬ効果もあった。広い館内に点在させることで、「街の中に家があるようにした」
広いフロアを子どもたちが走り回ったりもするが、日比野氏は「公園のベンチにいる感覚で、騒音が気にならなかった」とし、「自分の居心地のいい場所が自由に決められるのが一番大きな魅力だということは、入館者にも分かってもらえた」と話す。
日比野氏は、ワークショップなどを通じて、メディアコスモスの建設段階から市民活動を活性化する役割を担ってきた。そこで「岐阜だからこそできることをやりたい」という市民の思いを感じたという。
全国的に築30-50年の老朽化した美術館が増加しており、日比野氏のもとに「どのように生まれ変わらせればよいのか」という相談が数多く寄せられている。
展覧会風景 |
正面がなく、どこからでも出入りできるSANAA事務所設計の金沢21世紀美術館のように「市民が自由に使えるということが根底にあるべきだ」とし、「その地域ならではのモノや情報の発信場所としての要求に応える必要がある」と強調した。
伊東氏は、これまでの公共施設は「建築当初に想定された特定の使い方しかできないものがほとんどだ」と指摘した。これを受け日比野氏は「単なる教室や貸し画廊ではなく、市民がプレーヤー意識を持って、新しいものを生み出していける機能が大切だ」と総括した。
企画展の会期は5月24日まで。時間は午前10時から午後6時。入場は無料。水曜と5月2日は休館。
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