東京駅から総武快速線で27分。JR津田沼駅前の広大な敷地で進む土地区画整理事業「奏(かなで)の杜」整備がエピローグを迎えている。敷地面積は、東京ドームのグラウンド約26個分に当たる約35万㎡。ここに計画人口約7000人の街を創出する。プロジェクトの業務代行者はフジタで、現在、集大成となる最終プロジェクト「(仮称)津田沼区画整理14街区プロジェクト新築工事」がピークを迎えつつある。物件名称「ザ・レジデンス津田沼奏の杜テラス」。ことし11月末の完成を目指して建設中のプロジェクト現場を工学院大学、首都大学東京、千葉工業大学、東海大学、東京家政学院大学、日本大学、明治大学、ものつくり大学の学生が訪ねた。日本建築仕上学会・企画事業委員会の女性ネットワークの会が主催したもので、参加者は34人。見学会を千葉工大の工藤健さんと佐藤光輝さん、日大の今夏紀さんが代表リポートする。
今回見学させていただいたのはJR津田沼駅南口の新街区「奏の杜」の「(仮称)津田沼区画整理14街区プロジェクト新築工事」。RC造の住居棟3棟と共用棟、駐車場棟からなる本プロジェクトは設計・監理と施工をフジタが請け負っている。今回は主にA棟の1階から9階までの内装工事状況について見学した。
見学に先立ち、フジタ東関東支店の古谷知香さんよりプロジェクト全体の概要について説明していただいた。参加者は34名と多く、見学は2班に分かれて行った。
◆内装進む地上階
地上階では、内装工事が躯体工事を追いかける形で工事が進んでいる。まずは階段で9階まで上がり、下層階へ順次、内装工事状況を見学した。このように上階から下階に向かうことで段階的に、施工の進捗状況を見学させてもらえた。
内装を仕上げるには、最初は屋外からの影響を遮断するためにサッシや窓ガラスを、次に間仕切壁や各種設備、最後に床と順番に行うことを見学を通して知った。また、各住戸はオプションとして、内装の一部をカスタマイズすることができる。壁紙やインテリアなど、お客さまの好みに合わせた空間に仕上げることができるという。
◆iPadで検査
見学を終えると再び現場事務所に戻り、現場でのiPadを用いた施工管理方法について、デモンストレーションを行いながら説明していただいた。今回の現場ではiPadが導入されており、図面や工程の閲覧、各種の検査をiPadで行っている。データ閲覧ソフトを用いて事務所共有サーバー上のデータにアクセスして、必要なデータをすべて現場で確認することができるため、現場と現場事務所の往復時間の短縮や職人の方へのスピーディーな回答や対応ができるとのことだった。
また、iPadで行うことができる配筋検査システムを用いることで、鉄筋の自主検査や写真帳票の作成がスムーズに行える。さらには「仕上げチェッカー」を用いることで、仕上げ材の手直し工事の依頼に必要な書面の作成などにかかる業務時間を、従来に比べ約50%削減させることができたという。実際に現場で利用しているiPadのソフトを参加者が使ってみたところ、非常に簡単で、分かりやすく仕分けされていることが分かった。
また、1つの建物をつくるには、多くの職人さんや専門工事業者の方が携わっており、今回の現場見学会では、間違いを減らす工夫や安全への配慮、さらには業務の効率化のための工夫など、普段の大学の講義では学べない、現場ならではの状況を自分たちの目で見て体験することができ、非常に貴重な経験となった。
◆トークイベント
現場見学終了後、「建設業で働く喜び」と題したトークイベントが開催された。目的は、これから就活を控えている学生が少しでも仕事について理解するためである。パネラーは、主催の女性ネットワークの会メンバー、フジタの現場で働いている方たちを加えた計8名であった。
このうち、女性ネットワークの会は、建設の設計、施工、専門工事業、メーカーなどさまざまな分野の女性が社会で活躍するために家庭と仕事の情報交換を目的として設立されている。
トークイベントは初めに、パネラーから仕事内容などを説明していただいた後、学生からの質問に回答していく形式で行われた。参加した学生のうち、女性の割合は34人中、15人と約半数であった。
イベントでは、子育てと仕事を両立するために、夫婦で助け合うことや職場の理解の重要性などについて語られた。建築施工に進んだきっかけについてでは、古谷知香さん(新入社員・施工)は、大学で建築施工を選択したことをあげた。川村友也さん(入社9年・施工)は、ものづくりの最前線で毎回違う建物づくりに携わり、一生楽しめることに惹かれたという。
作業環境では、更衣室やトイレなどの改善要望が解決されていることが報告された。大変だったことは、職人とのコミュニケーション。森嶋順子さん(入社22年・施工)は、自ら職人に積極的に接することで慣れたそうだ。現在は、楽しそうに仕事をしている様子がうかがえた。
◆求めるのは意欲
また、男性社員から、部下が女性でも気を使うことはあまりないという回答もあった。女性社員の意見からも、そうした対応の方が働きやすいと感じた。求める人材としては、どの職種でも、意欲・適応力・チャレンジ精神・探求心が挙げられた。この仕事の魅力は、飽きない、情熱的に仕事ができる、完成時の達成感だという。皆さんの仕事にやりがいを感じ、いきいきとした姿が印象的だった。
最後に、日本大学の永井香織准教授のあいさつがあり、建設分野で女性が活躍するために、関係者の情報共有と周囲の理解が重要だと話された。今回のイベントを通して、ネットワークの大切さを認識することができた。
■工事概要
□工事名称=(仮称)津田沼区画整理14街区プロジェクト新築工事
□建設地=習志野市都市計画事業JR津田沼駅南口特定土地区画整理事業地内14街区
□用途=共同住宅291戸
□施主=三菱地所レジデンス、野村不動産、三井不動産レジデンシャル
□設計・監理=フジタ首都圏支社一級建築士事務所
□施工=フジタ東関東支店
□構造規模=A棟:RC造地上14階(136戸)、B棟:RC造地上13階(102戸)、C棟:RC造地上10階(53戸)、共用棟:RC造地下1階地上2階、駐車場棟:S造地上2階建て
□敷地面積=1万1211.17㎡
□建築面積=5356.08㎡
□延床面積=2万8629.85㎡
□建物高さ=41.77m
□基礎工法=場所打ちコンクリート杭
□工期=2015年1月26日-2016年11月30日
■参加者の声
栗島千佳さん(工学院大学4年)
1つ階が変わるだけで進捗が大きく変わっており、工期の短縮、効率の向上を実感することができた。
小安健太さん(首都大学東京大学院2年)
iPadによる作業の効率化がとても画期的だと感じ、残業の多い施工管理のイメージが良くなると思った。
市角康平さん(千葉工業大学3年)
施工中の現場を真近で見ると、段階的にでき上がっていくのがよく分かり、感銘を受けた。
内田丈喜さん(千葉工業大学3年)
iPadを現場で使うことによって、作業が効率化、高速化されていて現場も進化しているのだと感じた。
小野恵佑さん(千葉工業大学3年)
授業だけでは学べない細かい施工や技術、iPadでの作業の効率化を知ることができた。
金原拓哉さん(千葉工業大学3年)
現場でiPadを使用することで時間の短縮や、紙の節約などメリットが多く、多くの現場で導入していくべきだと感じた。
高橋慧さん(千葉工業大学3年)
現場見学会で普段見ることができないような場所が見ることができた。また、たくさんのお話を聞くことができ、貴重な経験となった。
松本知樹さん(千葉工業大学3年)
一般の人では見られない内装工事の様子やトークイベントを行っていただき貴重な機会となった。
山田大誠さん(千葉工業大学3年)
最新技術を導入することで、職人さんとのコミュニケーションを円滑に進められることができるのは凄いと思った。
吉田拓矢さん(千葉工業大学3年)
現場の雰囲気や工程の流れを見ることができたので、よりいっそう施工管理への興味が湧いた。
岡本龍太郎さん(千葉工業大学3年)
社員の方がとても熱心にお話ししてくれたことが印象に残りました。
工藤健さん(千葉工業大学4年)
iPadを利用した作業が、とても効率が良いと感じた。今後さまざまな場面で利用されると思う。
佐藤光輝さん(千葉工業大学4年)
iPadの導入による業務時間の短縮化のお話や普段見ることのできない部屋の配管などを見ることができ、貴重な体験となった。
梅本康裕さん(千葉工業大学大学院1年)
実際に見たことのない躯体や内装など、施工の流れを一貫して見ることができ、モノづくりの魅力を改めて感じた。
柏木雄貴さん(東海大学3年)
工程表や仕上げ時のチェックなども、携帯機器を使っていることに驚いた。
石丸桃江さん(東海大学3年)
現場見学をした際に階を下げていくたびに、各工程がどのように進んでいくのかが分かって面白かった。
染谷知美さん(東京家政学院大学3年)
施工の手順を直に感じることができた。iPadの活用で作業効率の改善のことや現場の方々の声を聞くことができた。
濱田奈那さん(東京家政学院大学3年)
現場見学から管理業務の内容、施工技術の工夫や建築の技術など普段の授業では学べないことが分かった。
若井千秋さん(日本大学3年)
建築業界に限らないことですが、女性が活躍される職場では、仕事と家庭のバランスを考え、女性だけでなく男性とともにホームワークの割合を考えていく必要があると感じた。
戸倉美咲さん(日本大学3年)
初めての現場見学でした。階数によって工程の進行状況が異なっていたため、理解しやすかった。
阪上美和さん(日本大学4年)
iPadにより事務作業などが効率化され、これからは安全管理や検査などにますます力を入れていけるのではと思いました。
今夏紀さん(日本大学4年)
iPadを使用し仕事の効率化をはかり、働きやすさを重視していることが分かった。このシステムがさらに広がったらよいと思った。
下田ありささん(日本大学4年)
4月から就職するにあたり、建設業のおもしろさを再確認することができた1日だった。とても面白かった。
佐藤瞭さん(日本大学4年)
今回の見学では、施工にあたってのミスをしない工夫や現場の仕上工事についての細かい点まで深く知ることができた。
岩瀬まり絵さん(明治大学大学院2年)
現場で働く女性の話しを聞くことができ、4月から現場で働く意識につながりました。
斎藤みどりさん(ものつくり大学3年)
実際の現場で、内装の施工を順を追って見ることができ、施工方法や現場での注意すべきことなどを学べて勉強になりました。
木島英悟さん(ものつくり大学3年)
作業がスムーズに行われるように細かい所まで考えられているのだと知ることができました。
濱尾誠弥さん(ものつくり大学3年)
職員の方の実際の体験や考えていることが聞けたり、マンションの1室が少しずつできていくのを短時間で見られたり、とても貴重な体験でした。
栗原健さん(ものつくり大学4年)
内定が決まり、施工管理職について不安になっていたことが解決できた。
■引率雑感 純粋で前向きな姿に喜び 千葉工業大学工学部建築都市環境学科准教授 石原沙織
本学の所在する津田沼駅周辺では、ここ数年で再開発が進んでおり、昔は人参畑だった場所がいまでは立派な街になりました。今回見学させていただいたのはその一部。主に集合住宅の内装工事状況について、段階的にでき上がっていく様子を見学させていただきました。
学生たちにとっては、座学の講義だけでは得られない貴重な経験となり、充実した様子でした。
彼らの多くは、将来建築関係の仕事に就きたいと思っています。特にこれから就職活動が始まる学生にとっては、今回の見学は単なる経験に留まらず、改めて自分のやりたいことへのモチベーションを確認する良い機会になったと思います。
学生たちの純粋で前向きな姿を見ることも、教員にとっては嬉しいことの1つであり、こういう機会をつくって下さった関係各位に深く感謝します。
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