2016/07/29

【記者座談会】公共工事請負額の減少続く地方建設業界 「地域の町医者」にカギ

A 参議院選挙は、建設産業界職域代表の足立敏之さんが上位当選を果たした。業界の関心事は、経済対策と公共事業予算に移っている。

B 選挙後、全国建設業協会の各建設業協会トップの顔は一様に明るかった。建設業界の声が票の数につながったことに、安堵していたのだと思う。しかし、建協トップの人たちも、仕事量となると顔を曇らせている。特に地方の会員企業の多くは、公共土木中心だけど、地元建設業が受注できる仕事量の減少に強い危機感を持っている。
C 対照的に全国ゼネコンの決算を見ると、土木・建築いずれの利益率・額とも急激な回復を見せている。国土交通省の統計では、先行きの仕事量の判断指標にもなっている、手持ち工事高も順調に積み上がっている。これが一般マスコミや建設産業界以外から、「経済対策で公共投資を拡大しても、供給力が間に合うのか」という指摘にもつながる。これに対し、日本建設業連合会の中村満義会長は明確に否定した。全国ゼネコンの業績回復は、施工高が急増したことではなく、過去の安値競争から脱却し、適正利潤確保を前提にした受注金額、いわゆる値戻しが実現しつつあるのが理由だからだ。
A 地方建設業界が、全国ゼネコンと同じ構図なら、厳しい環境とは思えないけど。
D 分かりやすく整理すると、労務単価引き上げ、パッケージ型積算導入の拡大を含む積算見直しなど、改正公共工事品質確保促進法(品確法)施行によって、公共工事を受注すれば適正利益が確保できる環境が整いつつあることは、全国ゼネコンも地元建設業もほぼ同じ。決定的な違いは、応札可能な市場規模の推移と件数だ。近年、土木工事の発注ロットは大型化の傾向にある。さらに、民間建築も大規模再開発は面的整備である土木工事とセットで、応札に参加する大手や準大手は自社戦略に基づいてすべてに参加しないから、競合相手も限られる。
C 地方業界はまったく違う様相だ。ある県の建協会長会社はことし1月から3月まで仕事がゼロだった。また別の元建協会長会社のトップは、前倒し発注で地方企業向け工事が増加したと言われることし4月から6月までの受注が、「(釣果ゼロを意味する)坊主」と頭を抱えていた。
B 地方建設業界の苦境は、統計上でも明らかだ。2015年度の主要前払保証3社の全国公共工事請負額は、36道府県が前年度比で減少。件数で増加したのはわずか4都県しかない。今年度も、政府の前倒し発注方針を受け第1四半期(4-6月)は31都道府県が前年同期比で増加に転じたが、16府県は減少が続いている。都道府県は請負額、件数とも増加しているが、市区町村は額・件数とも減少していることが、地元建設業の経営悪化の要因になっている。
D 地方建設業の仕事として期待できるのは、既存インフラの老朽化・耐震化対応だと思う。例えば橋梁のストックは70万橋と言われるけど、大半は自治体管理橋で、点検・維持・修繕は地元企業の役割だ。全国の自治体は早急に維持・管理の枠組みを地元業界と連携してつくることが今後重要だと思う。維持・管理・修繕の市場は大きく継続性もあり、「地域の町医者」を標榜する地方建設業が担うべき業務だ。
A 公共工事量の地域・規模格差以外で地方の課題は。
C 国交省が進めるICT(情報通信技術)化と建設キャリアアップシステム構築・稼働の2つが今後、地方建設業界で大きな問題として挙がるのは確実だ。この取り組みに異論を唱える声は地方業界でいまだ根強く、今秋の全建ブロック会議・地域懇談会でも議論の焦点になりそうだ。
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