2016/07/18

【企業】社員の命をどう守るのか 高まる海外事業のリスク


 建設業界に限らず、中長期的な国内市場の縮小を見据え、海外事業の拡大を目指す企業が多い。中期経営計画や長期ビジョンなどで、海外事業を将来的な成長分野と位置付け、新規に海外拠点を設立する動きもある。しかし今後、海外でのテロリスクにどう向き合うべきか。経済だけでなく、安全面でも世界の不確実性が高まってしまった今、その問いに対して即答するのは難しい。写真は旺盛な開発需要のある東南アジアの風景

◆安全保障強化求める声も

 日本PFI・PPP協会の植田和男会長は大学卒業後、大手商社に勤務して海外を飛び回った。当時、民主化運動がピークに達したポーランドでは戒厳令が敷かれ、滞在していたホテルの周辺を戦車が走ったという。海外勤務で直面するリスクは、時代や国によっても異なる。
 「ラマダン(断食月)の出張は、今思えば非常に怖かった」。最近、東南アジアの某国に出張したディベロッパー関係者は、そう打ち明けた。イスラム過激派組織が、ラマダン中のテロを呼び掛ける声明を出していたためだ。幸い何事もなかったものの、不安はぬぐい去れない。
 一方、「『恩を仇(あだ)で返す』という言葉しか思い浮かばない」と怒りに震えるのは、ある建設会社の幹部だ。「国際貢献の意義に異論を唱えるつもりはない。しかし、今回のような事態が起こってしまえば、誰もがやり切れない思いになる。ODA(政府開発援助)案件であれば、国対国で安全保障に向けた取り組みをさらに強化すべきではないか」。

発展を続けるジャカルタの市街地

 ゼネコンなどの海外要員には語学力はもちろん、現地の関係者や多国籍のワーカーをまとめ上げる人間力、異国の地で生活するバイタリティーなど、多種多様な能力が求められる。
 それだけに人材育成が一朝一夕には進まず、「一度、海外勤務になるとなかなか日本に戻れない」という声も多い。海外事業の拡大を目指す企業にとって、かねてからのジレンマだったが、そこにテロによる人命の危険というリスクが大きくのしかかってくる。

◆社員の命どう守るか
 海外のうち危険なエリアや治安の悪い地区では、建設現場に武装した警備員を雇うケースもある。しかし残念ながら、それも必ずしも十分とは言えない。実際、社員が移動中に強盗に襲われて殺害された事件もある。
 危険地帯に立ち入らないのは当然としても、警備や監視が手薄な民間施設などを狙う「ソフトターゲット型」のテロ、時と場所を選ばずに発生する強盗事件などは、リスク管理をさらに難しくする。そのリスクは、もはや一企業や一社員が事前に予測したり、コントロールできる類のものではない。海外事業のリスク・リターンバランスに与える影響も大きい。
 どんなビジネスにも、何らかのトレードオフが生じるが、今の海外事業には社員の人命に関わる極めて大きな壁がはだかりつつある。世界の危険地図が日々塗り替えられている今、現時点でどの国が安全か、どこがテロの標的になりやすいか、それを断言できる人は少ない。
 「テロに屈しない」というのが国際社会のスタンスだが、海外事業を展開する個々の企業はどう向き合うべきか。具体的にどのような手段で、社員の命を守ることができるのか。海外プロジェクトには“異次元”のカントリーリスクを想定しなければならない時代になった。
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