2016/07/16

【大成建設】移動式足場で安全に工期短縮! 煙突解体のテコレップ・スタック工法


 多くの工場が建ち並ぶ京浜臨海部。こうした工場にある煙突の解体工法として大成建設が開発した「テコレップ・スタック」は、本社、支店、現場が知恵と力を出し合って生まれた。高い安全性と大幅な工期短縮を実現する同工法で、新たな需要の掘り起こしにも期待がかかる。

 一般的に煙突の解体工事現場では、煙突を足場で囲み、周囲に防音シートを掛け、ブレーカーでコンクリートをはつりながら撤去する。昭和電工横浜事業所の煙突解体工事を担当した横浜支店の丸山高志塩浜土木工事作業所長は「煙突と周囲の既存工場の離隔は2mで、使用可能な通路は幅6mの構内道路のみ、工場を稼働したまま解体」という課題に直面した。通常工法は、足場の組み立て・解体に時間がかかる上、足場材の搬出入が多く、構内道路を頻繁に制限しなければならない。足場に堆積・散乱したガラの落下という危険性もあった。
 そこで目を付けたのが、2本のマストに設置した四角形の足場が昇降する移動式足場「スカンクライマー」だ。煙突とマストを支持棒でつなぐことでマストが2本ですみ、狭い現場条件にぴったりだった。煙突全体を足場で囲う必要がなく、頂上部からの下降も計6分で可能で、風による作業中断も短くて済む。従来工法で1カ月半かかる組み立ても、10日程度に短縮した。フィンランドのメーカーの製品で、煙突解体での使用実績はないものの、メーカーに足を運び、実物の昇降確認と安全性検証も実施した。

コンクリートブロックの押し倒し

 次なる問題は、稼働中の工場へのガラの落下防止だ。そこで円形の煙突をブロック型に分割して煙突内部に落とすという方法を考え出した。「ワイヤーソーで切断すると、切断時にブロック状のガラが足場側に倒れ込むという不安があった」(丸山所長)ため、ブレーカーで鉄筋を残してコンクリートをはつり、鉄筋があらわになった時点でコンクリートブロックを煙突内側に押し、主鉄筋を切って落とすことにした。
 ところが、どうしても小さなガラが足場と煙突のすき間から外側に落ちる。「地味だが重要なポイントだった」(丸山所長)。そこで、エレックスシート管内にラッシングベルトを通し、足場と煙突のすき間に巻き付け、シートをかぶせた。移動時の付け替えも簡単という優れもので、特許も出願した。検討に携わった同支店の小林敏彦土木部技術室長は「材料がシンプルなほど作業は簡単になる。作業員からも好評だ」と話す。
 ただ、大型のガラの落下による振動が問題になった。そこで、煙突の底に砕石とガラを敷き詰めてクッション代わりにすることを思い付いた。物体落下時の振動を計算で正確に算出するのは難しいため、「発注者の立ち会いのもと、実験で体感してもらうことにした」(小林室長)。発注者の要求振動は20ガル以下だったが、あえて6ガルを目標に設定。結果は最大でも3ガルと目標を大きく下回った。

テコレップ・スタックの開発に携わった丸山高志所長(右)と小林敏彦室長

 煙突内部に落としたコンクリートガラの撤去方法も課題で、煙突下部の小さな管理用出入り口をコンクリートで補強した上で、開口部を広げた。足場、ガラ、振動、開口部と、次々に湧き起こる課題を一つひとつ解決していった結果が、新工法の誕生につながった。本社の清水正巳土木本部土木技術部部長(技術担当)兼インフラ・海洋技術室長は「工夫と検討を組み合わせることが苦労でもあるが、強みでもある」と笑顔を見せる。
 既存の化学工場や石油精製工場などにある煙突は老朽化しているものが多い。実は、今回の現場作業中にも近隣から煙突解体の相談が丸山所長に寄せられた。煙突解体だけでなく、「煙突の補修、鉄塔の塗り替えなどメンテナンス市場でも需要はあり、ニーズに応じて応用できる」(清水部長)。移動式足場も「スカンクライマー」に限らず、国産メーカー製品も含め、現場条件にあわせて工夫すれば、工法の可能性は大きく広がっていく。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【大和ハウス】「ダイワユビキタス学術研究館」を東大に寄贈 設計は隈研吾 大和ハウス工業は14日、東京大学に寄贈したダイワユビキタス学術研究館=写真=の内覧会を開いた。今後、ユビキタスコンピューティング研究の拠点として活用する。施工は大和ハウス工業、設計は東大の隈研吾教授、総合監修は同じく大学院情報学環の坂村健教授が務めた。  大和ハウス工業の樋口武男代表取締役会長は「世界に羽ばたく技術をつくるために使われてほしい」とした上で、施設について「自然との調和がうまくいった建築であり、ここで新しい発想の若者が育つことを… Read More
  • 【建築】働きを実感できる空間「明治安田生命新東陽町ビル」 竹中工務店の菅氏に聞く【記者コメ付き】 スロープでオフィス間の全フロアを徒歩で移動できる 1949年から始まった日本建築学会賞作品部門の歴史の中で、ゼネコン設計部単体の受賞としては51年に「日活国際会館」で小林利助氏(竹中工務店)、63年に「リッカー会館」で鹿島昭一氏・高瀬隼彦氏(鹿島)が受賞したのに続く3例目となった。半世紀ぶりの快挙を達成した竹中工務店の菅順二設計部長が今回の作品で目指したのは、均質化したオフィス空間で失われた「働く人々の心のよりどころとなる建築」だ。現代、… Read More
  • 【サンドバイパス】国内初! 河口の堆積砂を浸食海岸に移す一石二鳥の技術 架設桟橋から斜杭を打設 毎年150ha以上の国土が海岸浸食によって失われている。静岡県・太田川の河口にある福田漁港は、土砂の堆積に悩みを抱えている漁港の1つ。河口側の航路に土砂が堆積するため定期的に浚渫しなければならない一方、漁港を挟んだ潮流の下手側、浅羽海岸は浸食される。こうした課題を解決するために投入されたのが日本初の「サンドバイパスシステム」だ。堆積する土砂を吸い上げて、浸食する海岸に砂を送る。静岡県が発注し、五洋建設などが施工を進… Read More
  • 【BIM】テンプと提携、即戦力オペレーター100人育成 グラフィソフト ※写真はイメージです グラフィソフトは、総合人材サービスのテンプスタッフと業務提携し、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト『ArchiCAD』のオペレーター育成をスタートした。2014年度中に100人のオペレーターを育成し、ニーズが高まるBIMプロジェクトへの人材要求に対応する。  東北復興の本格化と東京五輪の開催を背景に、今後の建設投資は増加傾向にあり、建築現場の技術者に加え、設計に携わる建築CADオペレーター… Read More
  • 【窓学】5月31日から『WINDOWSCAPE』展で研究成果を紹介 YKKAP ミラノサローネに出展したインスタレーション YKKAPは5月31日から6月15日まで、東京都港区の東京ミッドタウン・デザインハブで、塚本由晴東工大大学院准教授(アトリエ・ワン共同主宰)と7年にわたって取り組んできた窓学の研究成果を紹介する「窓学『WINDOWSCAPE』展」を開く。  同展は、4月にイタリアのミラノで開かれたデザインの祭典「ミラノサローネ」で両者が発表したWINDOWSCAPEの帰国展も兼ねている。窓のふるまい学などをテー… Read More

0 コメント :

コメントを投稿