2015/07/20

【復興特別版】若手漁師と建築・不動産業がタッグ! “新3K”漁師の基地づくり「TRITON PROJECT」始動

「かっこよく」「稼げて」「革新的」な“新3K”の漁師を増やし、水産業の未来を変えようという“フィッシャーマン”のための基地づくり「TRITON PROJECT」が、宮城県沿岸部で進んでいる。震災後、石巻市にIターンした若者が立ち上げた合同会社の巻組(渡邊享子社長=写真左から2番目)と、次代に続く未来の水産業の形を提案しようと地元の若手漁師集団が設立したフィッシャーマン・ジャパン(赤間俊介、阿部勝太共同代表理事)が連携し、後継者の移住に必要な職と住居を提供する。20日には第1弾となるシェアハウス『TRITON ONAGAWA』(女川町)と『TRITON13』(石巻市)の完成・供用を祝う旗開きを行う。これを皮切りに、各地で順次旗揚げする予定だ。

 ことし3月に設立された巻組は、「遊休不動産を活用して石巻への移住者に場所を提供し、街中ににぎわいと交流を生もう」と石巻市中心部商店街の空き店舗などのリノベーションを手掛ける2.0不動産代表の渡邊享子さん(プランナー)を始め、安達日向子さん(アートディレクター)と遠藤誉央さん(建築家)といずれも20代の3人が中心となるクリエーティブ・チーム。「石巻からさまざまなものを巻き込みながら、既成概念をひっくり返していこう」(渡邊さん)と、石巻市内外の人や企業、団体と組み、建築的な視点から新たなライフスタイルを発信している。
 一方、フィッシャーマン・ジャパンは「震災以降、それぞれの浜で新たな漁業に挑戦してきたメンバー」(島本幸奈プロジェクト管理本部マネージャー=写真左端)という、平均年齢31、32歳程度の若い地元漁師を中心に、加工や流通など水産業全般の関係者が名を連ねる。「若者の水産業離れを食い止めつつ、自ら市場ニーズを把握し、もうかる水産業を創造しよう」(島本さん)と、それぞれの既存販路を共有しつつ、新規販路の拡大に向け、漁師自らイベントなどに積極的に出向く。
 さらに高付加価値商品の提案や、ネットショッピング・ITビジネスなどにも取り組む。最大の目標に掲げるのは“担い手の育成”だ。「10年後の2024年までに1000人のフィッシャーマンを増やそう」と、季節体験就業やキャンプ、地元小学校との連携による子どもの漁業体験などを展開することにしている。
 三陸沿岸で漁業の新たな担い手を確保する上では住まいの確保が課題に挙げられる。「震災以前から持ち家が圧倒的に多く、不動産が機能していないところで被災したため、さらに住まいの確保が困難になった」(渡邊さん)という。このため移住に必要な職とともに、フィッシャーマンが三陸の浜で安心して暮らせる場所として提供するのが『TRITON House』だ。
 いずれも浜にある遊休不動産となった建物を賃借して手づくりでシェアハウスに改修している。「震災以降の4年間で、何かを始めようとしても自分たちだけでは難しいことを実感した。多くの人を巻き込みながらプロジェクトを進めたい」と島本さんは語る。改修工事に携わる大工や電気工事士は「ともに震災直後に石巻入りし、半年間をテントで過ごしながら、ボランティア活動に汗を流した仲間」(島本さん)だという。このほかにも就労支援団体や学生など多くのボランティアがかかわりながら、作業が進んでいる。
 こうして生まれ変わった「TRITON ONAGAWA」には銀ザケ漁師が入居。現在施工中の石巻市北上町十三浜の「TRITON13」はワカメ漁師を受け入れるシェアハウスとなる。また、南三陸町歌津に計画している第3のプロジェクトは、漁業体験などのブルー・ツーリズムの拠点となる予定だ。
 渡邊さんは「TRITON PROJECTを皮切りに、林業や農業などさまざまな1次産業と手を組み、商品開発や広報、販路の拡大など、若者が革新的な産業に携わる機会を応援していきたい」と語る。
 一方の島本さんは「漁業従事者も高齢化が進んでおり、1人当たりの収穫量が減少する中、新たに漁業を学び、浜での住まいや仕事の情報などを提供したい。さらに季節で仕事量が変化するため、季節バイトという新たな漁業とのかかわり方を提示したい」と、“フィッシャーマン”の全国展開も視野に入れている。
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