2015/07/24

【記者座談会】「官邸主導」の新国立競技場整備はどうなる?

A 安倍首相も出席して第1回新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議が21日に開かれた。
B 閣僚会議は、国を挙げ新国立競技場整備に取り組む姿勢を打ち出したもの。安倍首相も「政府の責任で2020年東京五輪・パラリンピックに向け完成させる」と明言した。国家プロジェクトとして、本来あるべき姿ではあるが、ただし、遅すぎる。

C 政府の後ろ盾もなく、運営主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が国家プロジェクトとなる整備計画を進めてきた。でも国際デザインコンペを始め、設計者選定、実質的に改正品確法(公共工事品質確保促進法)の適用となる新たな発注方式による施工者選定など、未経験の組織には荷が重すぎた。新国立劇場、新国立美術館の建設と比べれば一目瞭然だ。代々木の国立屋内総合競技場も当時の官庁営繕部が担当した。
B 権限を与えられないまま形ばかりの「事業主体」としてJSCが、東京都を始め関係機関と膨大な調整を進めながら、なんとか進めてきた。ただ、民主党政権下のあいまいな国家プロジェクトを政府主導に切り替える機会は、安倍政権発足時や基本設計がまとまった時点でいくらでもあった。関係する設計者や施工者の立場を考えると、今回の判断はあまりにも遅いと言われても仕方がない。
A 安倍首相が整備計画の白紙撤回を表明したのは17日。このタイミングをどうみるか。
D 安倍政権が抱える大きな課題は、沖縄の米軍基地移転と安保関連法案だ。沖縄県民集会や反対を訴える多くの人々がいる中で、今回の計画見直しは「国民の声を聞かない」という世論を払しょくし、“国民の声を聞く”“政府の主導的責任”を強くアピールできるからね。
A 政府として新たな整備計画を今秋にまとめるというが、そのポイントとその後のスケジュールは。
B 整備計画には、総工費を始め、施設の機能や規模も盛り込まれる。五輪後を見据えた多目的利用の観点から開閉式遮音装置導入の可否やサッカーワールドカップ日本招致を見据えた8万人規模のサッカー専用スタジアムへの対応なども焦点の1つだ。イベント開催が大幅に制限されていた国立競技場の問題を解消するため、遮音装置設置は利用関係者にとって絶対条件だとしている。
A 抜本的見直しでも五輪後の有効利用の観点から初期投資を考えることの重要性が問われることになるね。
C 整備計画策定後、年末にかけて設計・施工者選定が始まる。WTO(世界貿易機関)対象の公募型プロポーザルによる設計・施工一括発注が予想されるが、デザインを含めた設計・施工一括発注となると、選定方法がポイント。非常にタイトなスケジュールの中で、提案者に何を求めるのか。また、その選定手法はどうするのか。学識経験者を含めた外部の選定組織設置が不可欠。特に委員選定も重要になる。
D これまで担当してきた設計者や施工予定者への対応も重要だ。抜本的に見直すと言うが基本的な機能などを理解して設計や施工面からサポートしてきた“実績”をどうとらえるかだ。
B 設計・施工者が決まるのは年末か年明け早々。下村博文文科相が言う2月着工までわずか2カ月で新国立競技場の基本・実施設計を終えるのは、これまでの感覚では非常に難しい。
A いずれにしても建築をきちんと理解した者がいなければ政府主導と言ったところで成功しないことは確かだ。
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