2015/07/19

【技術裏表】日本の「ブランド力」上げるチャンス 温水洗浄便座に国際規格を制定へ

「温水洗浄便座の国際規格制定に向けた協議が、われわれ日本主導でスタートすることになった」。日本建材・住宅設備産業協会の藤森義明会長(LIXIL社長)は6月の総会後の懇親会で詰めかけた会員に向け、そう喜びをあらわにした。日本のトイレでは当たり前になった温水洗浄便座機能だが、海外では緒に就いたばかり。日本メーカー各社が海外市場を開拓する上でも、日本主導で規格をまとめられる意義は大きい。写真は2014年10月に行ったIEC加盟国へのプレゼンテーション。

 状況が動いたのは2014年10月だった。国際電気標準会議IECの家電製品分野を担う委員会(TC59)会合が東京で開かれるタイミングを見計らい、日本としてIEC加盟各国に規格化の考え方を提案した。議長国のイタリアと幹事国のドイツには事前に根回しした効果もあり、反対意見もなく、逆にガルガンティーニTC59国際議長から規格化に向けた日本の前向きな姿勢が高く評価された。
 プレゼンターを務めたTOTOのウォシュレット生産本部でグローバル品質推進グループ技術主査を務める高田英樹氏は「ゼロベースから規格を立ち上げた経験がなく、手探りで進めてきたが、議長からの評価を聞き、実を結んだことを実感した」と当時を振り返る。その1カ月後に正式な提案書をIECに提出、各国の投票を経て規格化の協議開始が決まるまで4カ月余り。関係者は「薄氷を踏む」思いで結果を待っていた。
 朗報が届いたのはことし3月。加盟25カ国のうち、賛成は16カ国、反対はなかった。5カ国以上から規格化作業に専門家を派遣する合意が必要だったのに対し、9カ国からの賛同を得た。温水洗浄便座の規格化は経済産業省の委託事業に採択され、国としても幅広いロビー活動を展開してきただけに、中心的な役割を担ってきた協会関係者の喜びもひとしおだった。

25カ国中16カ国から規格化の賛同を得た
5月には日本を含め10カ国の専門家で構成されたワーキンググループが組織され、規格化に向けた具体の作業がスタートした。今後12月に規格の第1原案、16年12月に第2原案を示し、加盟国の賛同を得た上で、早ければ17年12月にも規格が発行される見通しだ。日本メーカーが先行する温水洗浄便座ではあるが、米国、スペイン、ドイツ、スイス、中国、韓国のメーカーも市場に参入しているだけに、規格化には各国の思惑が絡み合う。
 今回の規格化は、機器を構成する部品類の細かな納まりなどを定めるものではなく、洗浄力や温水噴射の持続時間など性能にかかわる部分を比較検証できる枠組みを整えようというものだ。メーカーにとっては製品づくりへの影響はほとんどないが、製品自体の性能レベルが示されるようになり、より技術力を評価してもらえる枠組みが整う。低コストを売りにする海外製品との差別化にもつながり、日本にとっては大きなインセンティブになる可能性が期待できる。
 ただ、性能評価には難しさもある。協会国際標準課長の峯弘氏は「例えば洗浄力はメーカーの製品コンセプトによって考え方が大きく異なり、単純に性能を比較できない部分もある」と説明する。LIXIL、TOTO、パナソニックなどの日本製品は省エネや節水を前提に洗浄力の向上に力を注いでいるが、スイスのゲベリット製のようにあえて高い水量の洗浄力で勝負するメーカーもある。日本の追求する心地良さをどう性能に落とし込むか。海外メーカーとの綱引きが活発化しそうだ。

日本製温水洗浄便座の「ブランド力」アップなるか
そもそも温水洗浄便座は既存技術の組み合わせで構成されているため、30年以上にわたって使い勝手を追求してきた日本メーカーにとっては圧倒的なコスト競争力を持つ海外製品によって市場を席巻される危ぐもある。高田氏は「現在はカタログスペックで横並びにされても明確に差別化できていない。客観的な指標で性能を測ることができる国際標準規格は、われわれにとって必要不可欠である」と強調する。
 温水洗浄便座の海外市場は着実に盛り上がりを見せ始めているが、欧州では日本メーカーのブランドがなかなか浸透しないジレンマもある。住宅設備業界にとっては「国際標準規格による性能試験で欧州製品と競い、(日本製の)優位性を証明できれば、ブランド力を上げることができる」(高田氏)チャンスとなるのは確かだ。
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