2015/07/18

【山下PMC】訪日外国人を地方へ! 世界を魅了する国となるために 2020以降の建設学

2014年度、日本の「旅行収支」が55年ぶりに黒字に転じた。あれだけ海外旅行好きな日本人旅行者たちが海外で使ったお金よりも、訪日外国人(インバウンド)が日本に落としていったお金の方が多かったということである。これは、昔の日本をよく知る皆さんには驚愕すべき現実だろう。今年度はこれがさらに増加し、今後も堅調に伸び続けそうな勢いである。(写真は、開業後初の大型連休に賑わう金沢駅)

 円安や爆買いのおかげだろうと結論付けてしまうには拙速に過ぎる。これまでとは明らかに違うなにか!が、そこに潜んでいる気がしてならない。
 21世紀に入ってから政府自らが、「ビジットジャパン」などの戦略を立てて外国人の受け入れを熱心に進めてきた。これら長年の地道な政策が実を結んできたのと同時発生的に、さまざまな国の人たちが日本に行きたくなる興味を抱くようになったのである。これを大きく促進させるきっかけとなったのが、インターネットや個人ブログ等ICTの世界的な普及にあると思う。旅行会社の画一的な宣伝文句ではない、個人が体験した真実の情報や映像が、瞬時に世界中を駆け巡る身近な存在となったからであろう。食を始め景観・新幹線・渋谷スクランブル交差点・文化・デザイン・京都・社会秩序・人々の優しさ・高品質商品等々、それこそあらゆる情報や映像によって。これら多種多様な分野の日本の魅力が複合的に重なり合い、それらが累積し大きな輝きを放って世界の人々に届き始めた。クールジャパンはもともと自然発生的な現象だった。だから、日本の魅力は分厚い層を成しており、そうやすやすと飽きられるようなことはないだろう。
 当然、建設産業にも多大な影響をもたらすことは言うまでもない。直接的な影響を受けるホテル・旅館から、商業施設や観光施設、これらをつなぐインフラ施設と多岐にわたる。海外の人々が日本を訪れるには海路か空路を利用するしかないのだから、港湾や空港を強化(ハブ化)し、全国にアクセスできるインフラ網を効果的に整備していくのが自然の流れだ。そしてこのインバウンド旋風を必要としているのは、都市部よりむしろ地方なのではないだろうか!? 地方創生(再生)にとって一番の切り札となるのは、外からの収入源の確保である。新たな収入源を創り出し、現在収入をより引き上げることが、補助金を確保することよりもよほど大事なことである。それにはインバウンドという外需を活用し国内の人々を刺激して、相乗して内需を拡大していくやり方を取り入れるのが最も効果的だ。
 現在、日本にはゴールデンルートと呼ばれ、インバウンドが訪れる主要路線がすでに幾筋か形成されている。この路線から自らの地域にどのように引き込んで来れるのか、そして新たなゴールデンルートへと切り拓いていけるのかが重要になってくる。そして自らの地域の顧客対応領域を多面的に拡げていかなければならない。
 しかし、これを実現させるためにはこれまでとは違った視点が必要になる。例えばマーケティングである。日本人向けに宣伝する感覚とは異なる着想で臨むことが要求される。外国人が最も頼りにする観光案内(ロンリープラネット、ミシュラン他)や一番最初に目にするサイト(ジャパンガイド.com、トリップアドバイザー他)へのアプローチを図ったり、その地方独自の物語を多くの外国人に届くようにブログ発信したりと、相手の立場になって戦略を凝らすことが不可欠となるのである。言語やサインなどの分かりやすさはもちろん、彼らの行動パターンを先読みし、その対応策を用意しておくことも含めて。
 そしてインフラや施設なども安易に造るのではなく、将来の少子高齢化や観光客への対応を総合的に捉え、その解決策をしっかり準備した上でなければ将来重い負債を背負うことになる。
 クールジャパンの国づくりは、日本自体の強みであるソフトパワーと持てるハードを相乗で強くする可能性を秘めている。ただし、それが約束されているわけではない。PRE/CRE戦略などと絡めて、総合的に次世代の事業体系・施設体系を創造する姿勢で取り組む必要がある。真に豊かで世界を魅了する国の姿は、きっとその先にある。
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