2015/07/26

【インタビュー】『これからの環境エネルギー』著者 千葉商科大教授 鮎川ゆりか氏に聞く

膨大な資料とフィールドワークに基づき、国内外のエネルギーの現状が幅広く紹介されている。あとがきにもあるが「エネルギー」という分野を限りなく「環境」という切り口で解説しているのが特徴だ。東日本大震災で、中央集中型電力システムの脆さ、レジリエンスの乏しさが改めて露呈した。著者の鮎川ゆりかさんは、そこから書き起こしていると話す。

 「3・11で、集中型システムなど日本が抱えるエネルギー問題がさまざまな形で出てきた」。送電線網の未整備、新規電力会社や再生可能エネルギーを育ててこなかったことを歯に衣着せず指摘する。
 副題にもあるように「未来は地域で完結する小規模分散型社会」であるという。
 「私たちを快適にしてくれるエネルギー利用生活は、地域が主体となり、そこで完結する小規模分散型社会である。これからはこうした社会がITでつながり、情報やエネルギー、文化、生活物資を融通し合い、自然を資本と考える経済社会になるだろう」
 内容は、著者が千葉商科大学教授として授業で取り上げた「エネルギー論」がベース。各項目を少しずつ掘り下げて、専門的見地を追加している。世界の先進事例や岩手県紫波町の草の根的な取り組みなどを紹介する一方、日本の再生可能エネルギーの開発・利用が世界のすう勢から大幅に遅れている点も指摘している。

鮎川ゆりか千葉商科大学教授
「IEA(国際エネルギー機関)が6月にまとめた『エネルギーと気候変動に関する特別報告』によると、2014年の世界のエネルギー起源CO2排出量が、前年比で増加しなかった。経済成長は3%ほどあったが、成長とCO2排出が分離される『デカップリング』がOECD各国で起きている。これは過去40年で経済危機に起因しない減少としては初めてのこと。しかし、日本はそうなっておらずカップリングしている」
 日本がカップリングしているのは、再生可能エネルギーの育成が遅れているためだ。
 「メガソーラーの開発で、日本も太陽光発電の分野では何とか発電容量で上位に入ることになったが、省エネも含めて世界の取り組みから遅れを取っている。特に熱利用がとても遅れている。有効利用されているのは3分の1程度。コージェネレーション、地中熱などの利用がもっと進んでいい。下水熱の利用に国土交通省が積極的に取り組み始めたり、川崎市で工場の蒸気を融通・再利用するスチームネットのような画期的な試みもある。東日本大震災を経験した日本にとって、いまほど自然エネルギーを普及させ、それを中心に据えた小規模分散型社会を実現させられる時はないと思っている」

■資源を幅広く網羅し検証
 エネルギー全般についてこれほど幅広く網羅した書籍は類例がない。著者の所属する千葉商科大学での授業「エネルギー論」がベースだが、それに国内外の膨大な資料やリポートを加えて構成しているため、ほかにはないものに仕上がっている。化石燃料、原子力、再生可能エネルギーといった「資源」を検証するとともに、利用面を紹介。世界各国の先進事例なども取り上げている。特徴は、「エネルギー」という分野をできる限り「環境」という切り口でまとめている点だ。3・11で課題が明らかになって、著者が注目したのが小規模なスマートグリッド、小規模分散型社会だった。
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