竹中工務店が開発した木とモルタルによる耐火集成木材「燃エンウッド」は、大型建築物と木造との距離を一気に縮めた。これまで、商業施設やオフィス、ショールーム、教育施設で採用されるなど広がりを見せている。今回、燃エンウッドが採用される医療施設の建設現場を取材した。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)による調達改革など、設計・施工一括受注の強みを最大限に追求した現場だ。今、工事は大詰めを迎えている。写真は燃エンウッドの門型フレームが連続する透析室内。
千葉県柏市で工事が進む「新柏クリニック新築計画」は、地上3階建て延べ3096㎡の透析クリニックを建設する。鉄筋コンクリート、鉄骨、木材の複合構造で、2、3階部分の透析室に燃エンウッドが使われる。
透析室は患者の滞在時間が長い。患者に安らぎと安心感を与えたいという建築主の意向が、燃エンウッドという形になった。室内には燃エンウッドによる柱・梁の門型フレームを連続して配置し、木の柔らかさや香りを体感できるよう演出する。外観も木目調コンクリートを多用している。
透析室が配置する南面。前方の森林が見渡せる |
建物は東西方向に長く、透析室を配置する南面を大きく確保。前方に広がる森林を見渡せるよう、床から天井までの大型窓を採用している。燃エンウッドによるフレーム部以外の天井には天然ヒノキを施し、大きな庇の軒天井にまで連続性を持たせた。「体だけでなく心も浄化する“森林浴のできるクリニック”をテーマとしている」(東京本店設計部の吉岡有美主任)。
このプロジェクトでは設計施工のメリットを最大限に生かし、BIMを効果的に導入している。特に燃エンウッドの調達改革が特徴的で、通常は協力会社に外注する作図を内製化して生産性を向上させた。竹中工務店が木とモルタルバー、それぞれの単品図基図までを同時並行で作成し、「作図期間全体を2.5カ月短縮できた」(東関東支店の大島壮雄作業所所長)。
施工段階でもBIMは活躍している。大島氏自身も燃エンウッドを扱うのは初めてだったが、BIM導入で全作業員が施工に関するさまざまな情報の共有を進めた。「分かりやすく、安全に施工できた」(大島氏)というメリットが大きい。設備工事の施工精度と品質の確保にも一役買っている。
大島壮雄作業所所長(左)と吉岡有美主任。背後は木目調コンクリートの柱 |
燃エンウッドは構造材であり、仕上げ材でもある。このため施工中の取り扱いには非常に気を遣う。特に、燃エンウッドに接するコンクリート部の打設には繊細さが求められた。一方、木目コンクリートは型枠に凹凸を設けず、化学的手法で木目を表現している。
在来工法部では特殊なスペーサーを採用したり、鉄筋固定方法を工夫するなど、品質確保に向け随所にこだわりを織り込んだ。バルコニー立ち上がり部の木目コンクリートは、現場敷地内でプレキャスト化している。
軒天井にもヒノキを使用 |
設備面にも建築主のこだわりがある。例えば透析室の空調には、風の吹出しを抑えた「全空気式放射整流ユニット」を採用し、患者の負担を軽減する。一方、透析クリニックでは多くの水を使うため、廃液の廃熱利用なども進める。屋上には、太陽光発電パネルを設置する計画だ。
現在、2016年1月の竣工に向けて設備や内装、外構工事などが進んでいる。大島氏は「これまで無事故・無災害で工事を進めている。現場が一丸となって、最後まで気を緩めることなく完成させたい」と意気込む。完成は目前に迫り、建築主の患者に対する思いが具現化されつつある。
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