BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)データを、設計から施工段階に一気通貫で活用することは、日本の建築プロジェクトでも目指す到達点の1つだ。設計業務のすべてにBIMを導入する米国の建築設計事務所「SHoPアーキテクツ」では施工者を含めたプロジェクト関係者間の密なデータ共有を実現している。ディレクターのジョン・セローン氏=写真=に、データ共有のポイントを聞いた。
全米プロバスケットボール協会(NBA)のチーム「ブルックリン・ネッツ」の本拠地であるバークレイズセンター。特徴的なデザインは、ニューヨーク市ブルックリン区の地域シンボルとしても評される。「このプロジェクトは、われわれにとってBIM活用の集大成になった」と、セローン氏は強調する。
同社が複雑な建築プロジェクトの設計に3次元モデルデータを取り入れ始めたのは20年ほど前。当時の社内では「デジタルモデル」と呼んでいた。3次元を軸に設計にかかわるコーディネーションをこなしてきたため、BIMという概念が出てきた際には「既に社内のマインドセットは整っていた」と話す。
バークレイズセンターの施工風景(photo:SHoP Architect PC) |
バークレイズセンターの外装は、大きさや形状の異なる1万2000枚の鋼製パネルで構成されている。鉄筋系のファブリケーターはBIMに対応できる社が多いが、外装系は2次元が主体であるだけに、データのやり取りでは受け手のBIM対応力に合わせ、3次元と2次元を使い分け、同時に切削マシン用のコードも付与した。
施工現場では、異なるパネルをグループ化したメガパネルとして据え付けが行われた。大きさは幅3.5m、高さ15m。ファブリケーターとは設計図面ではなく、あえて製作図ベースでやり取りを進めた。施工進捗に合わせ、パネル製作の指示を出してきた。「製作図をベースにしたのは承認を得るための手段でもあった」と振り返る。
ダッソーシステムズのBIMプラットフォーム「CATIA」を活用した(:SHoP Architect PC) |
レーザースキャンで施工位置を確かめながら、1枚ずつメガパネルを取り付けた。最初は1日1枚のペースだったが、徐々にハイペースとなり、1日に最大20枚もの設置で施工が進んだ。難しいと考えていた天井パネルを1カ月で組み上げたのも「施工者のスキルの高さとともに、3次元モデルデータによる納まり検証が事前にできた点が大きかった」と考えている。
バークレイズセンターが完成したのは2013年9月。ここでの経験が次なる複雑なプロジェクトにも生かされているという。規模の大型化は年々進み、よりBIMの活躍の場が広がっている。BIM成功のカギは「コミュニケーションの透明性であり、それにはプロジェクト関係者の責任範囲を明確に決めることが先決」と説く。
10年後20年後を見据えた時、設計者も施工者も「企業文化を型にはめてはいけない」と強調する。「常に新しいものを取り入れる姿勢こそ、次への一歩であるからだ。関係者全員が1つにつながることも重要であり、常に新たなテクノロジーのスキルを磨き続けることをしなければ乗り遅れてしまう」
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