2015/12/26

【海外建築家のBIM目線】「持続可能性へのアプローチが鍵」 設計事務所BIGのジャコブ・アンドレアッセン氏(デンマーク)


 日本でのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)導入が加速する中、海外の建築設計事務所はBIMとどのように向き合おうとしているか。デンマークの建築設計事務所「BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)」は、維持管理段階を見据えたBIM導入に舵(かじ)を切る。BIMマネジャーのジャコブ・アンドレアッセン氏に、目指すべき方向性を聞いた。

 「長い目で見ればBIMの導入が、工事費分のコスト削減をもたらす」とアンドレアッセン氏は切り出す。プロジェクトの企画段階からBIMを導入し、建物の運用後を見据えた設計を実現できれば「LCC(ライフサイクルコスト)の3割を削減でき、建物を50年以上使えば、ちょうど工事費と同等のランニングコストが削減できる」との試算からだ。
 同社がBIMを本格導入したのは2011年。もともと3次元設計を志向してきたこともあり、導入には組織の抵抗もなかったが、設計のフェーズごとに見た場合には「チームによってデータ連携のロスが生じてしまう課題が残った」と振り返る。そこで社内にBIMを前提に設計を進める方針を示し、プロジェクト初動期からBIMのプラットフォームを形成すよう呼び掛けてきた。
 設計、施工の各段階ではBIMの導入効果が明確に見えている。設計段階では多種多様な情報を集め、オーナーに最大価値を提供できるツールになり、集めた情報を基にデザインの根拠を示すことで、合意形成にも役立っている。「今後は持続可能性へのアプローチがBIM活用の重要なキーワードになるだろう」とみている。
 施工段階では、情報の受け渡しロスや干渉部分のチェックなどの問題を事前に回避できるツールとしてプロジェクト関係者の間で定着しつつある。欧州では公共建築にBIMを成果物として求める動きが拡大しているだけに「プロジェクト関係者が活用するBIM関連のソフトは複数におよぶことから、プラットフォーム上で共有できる枠組みの構築が求められる」と考えている。
 「その際には、初期設定とドキュメンテーションにおけるギャップをいかに解決するかが重要になる。BIMは建築家にとってのコントロールツールであり、そのメリットは施工段階にとどまらず、オペレーションの領域でも効果を発揮する。裏返せば、オペレーションの時にこそ、BIMの真の価値を得ることができると言えよう」

グラフィソフトのBIMソフト「ARCHICAD」を使ったスウェーデンの集合住宅モデル

 次のBIMのフェーズとして、維持管理段階を見据えた対応をいかに進めていくか。同社が打ち出すのは「BOOM」(ビルディング・オーナー・オペレーター・モデル)という新たな概念だ。「よく建物のゆりかごから墓場までと言われているが、次のゆりかご(計画立案)までをも考えることが、BIMの効果を最大限に発揮する手段になってくる」
 残念ながら、この概念に基づいた設計はまだ実現していないが、将来的には設計事務所の業容拡大につながる糸口としてもとらえている。「この概念を実現できれば、設計者がFM(ファシリティ・マネジメント)への領域に進む可能性は大いにある。われわれにとってのビジネス戦略としても期待できる。BIMへの期待は大きいだけに、現時点で描いているビジョンの達成率はまだ5%ほどの感覚に過ぎない。まだ動き出したばかりだが、この5%でも以前と比べて大きな効果を得ている。もっと進めば、計り知れない効果を得ることができるだろう」と期待を込める。
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