◆ビー・ブラウン・メディカル社工場施設 多国籍調整にBIM
ジャカルタ東部の郊外には複数の工業団地が立地し、日本も含め世界中の企業が進出している。このうちチカンペック工業団地で、清水建設は医療関連製品の国際企業であるビー・ブラウン・メディカル社の工場を施工中だ。大容量点滴薬パックなどを製造する工場で、37のクリーンルームや2つの生産ラインを備える。写真はストックヤード棟(右)。
この工場施設はRC造やS造の複数棟で構成し、規模は総延べ2万1000㎡。「東南アジアでビー・ブラウン社から工場を受注するのは、ベトナム、マレーシアに次いで3件目だが、規模は今回が最も大きい」(佐久間伸一作業所長)。
発注者はドイツの企業で、設計コンサルタントはオランダ、杭工事がインドネシア、クリーンルームなどをドイツ、設備工事は日本の大気社という国際色豊かな施工体制だ。清水建設は建屋工事の担当だが、別途工事との調整業務も担うためBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を活用している。その恩恵は、「より深いコミュニケーションが可能になった」(佐久間所長)という点が大きい。BIMによる3次元モデルは、複数の国境を越える言語として機能している。
佐久間伸一作業所長 |
日本の工場建屋は低コストなS造が一般的だが、インドネシアの工場は「在来工法のRC造で躯体をつくり、そこにS造の屋根を乗せるのが比較的ポピュラー」という。労務費が安いため、S造よりも、在来RC造の方が低コストで済むためだ。
一方、製品倉庫となるストックヤード棟では、内部で搬送システムを稼働させるため、床の仕様はスーパーフラット。許容誤差は平面13m中で上下3mmと、厳しい精度が求められた。こうした繊細で難易度の高い工事は日系ゼネコンのお家芸でもある。
◆MNCメディアタワー 大幅設計変更に生産性向上策で挑む
設計施工で受注した「MNCメディアタワー」 |
5つ星ホテル「パーク・ハイアット」が入居予定の超高層複合ビル「MNCメディアタワー」は、インドネシアのメディア大手MNCグループから設計施工で受注した。規模はRC造地下6階地上39階建て延べ10万9533㎡で、施工は現地のTOTAL社とのJV。隣接するMNC本社ビルは清水建設の設計施工で1996年に完成し、その実績も買われて今回の受注につながった。
このプロジェクトでは、建築主からの要望で大幅な設計変更があった。延べ床面積を大きく変えず、建物高さを約80m低くするという非常にハードな変更だ。しかも工期を変更せずに完成を目指すことになった。このため設計とオーバーラップしながらの施工“ファストトラック”を強いられた。杭や地下連壁などの工事は既に進行していたため、上部設計の自由度は大幅に制限された。こうした課題に対してゼネコンの総合力で向き合い、徹底した生産性向上策を導入している。
300回もの転用が可能なアルミ製システム型枠 |
施工を大幅に効率化するための設計が求められ、シンメトリー構造を多く取り入れた建物設計にたどり着いた。これにより「7階から上のフロアはアルミ製システム型枠の転用を繰り返すことができ、生産性向上に貢献している」(赤木創作業所長)。
地下躯体工事では「リング逆打工法」によって工期を1割短縮し、地上躯体はクレーン負荷の低減に重点を置いて基準階8日サイクルを確立した。一方、安全対策には特に配慮している。地上で組み立てた鉄筋などを吊る「自動玉掛け外し機」は日本から取り寄せたほか、外周養生の「セーフティー・スクリーン」はシンガポールから輸入した。
赤木創作業所長 |
ともに施工するTOTAL社にとっては、こうした効率的な施工技術や安全対策などのノウハウに触れることができる一方、「われわれは取引業者ネットワークや近隣対策などの面でTOTALから恩恵を受けている」(赤木所長)。
このプロジェクトは清水建設にとって、非日系企業からの設計施工受注のモデルとなる事業の1つ。赤木所長は、「品質や安全面を含め、一目で清水建設の現場だと分かるような“清水らしさ”を追求している」と思いを語る。 (濱野貴之)
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