清水建設・大林組・WIKA・JAYAの4社JVが施工する「ジャカルタMRT南北線 CP104-CP105工区」は全体延長3.89㎞で、開削工法による地下駅舎4駅を2本のシールドトンネルでつなぐ。線路が地上部から地下に移行する区間がスタートラインで、まず開削トンネルを構築し、そこからシールドマシン2台が北に向かって発進した。開削トンネルは長さ460m、シールドトンネルは2.6㎞となっている。【ジャカルタ12月10日=濱野貴之】
設計施工で受注したが、設計段階では「耐震設計基準や地下構造物の統一基準が明確でない」(清水建設JVの大迫一也建設所長)という課題に直面した。このため、現地の地震波などを使って基準の確立を進めた。
一方、施工の前段階で重要だったのが、開削部の交通渋滞対策だ。目抜き通りの「スディルマン通り」上に作業帯を設けなければならない。ジャカルタの交通渋滞は“世界最悪”とまで酷評されるだけに、現場では徹底した渋滞対策が求められた。
まず上下12車線、幅約70mの道路を約1年かけて大幅に切り回し、車線を減らすことなく作業帯を確保できた。その上で、ミキサー車やダンプ車など大型車両の出入りを夜10時から朝6時の間に限定し、コンクリート打設や土砂搬出は深夜に行うことにした。こうした渋滞対策は関係者から高い評価を受けたほか「ジョコ・ウィドド大統領からもお褒めの言葉をいただいた」(大迫所長)という。
「青年の像」の直下を施工 |
シールドの発進立坑を兼ねる開削トンネル部では、巨大な「青年の像」の直下にボックスカルバートを構築することになったが、像の重さは420tにも及ぶため一時撤去はかなわなかった。3Dスキャンを経て像を4本の杭で支え、ボックスカルバート構築後にコンクリートで受け替えている。
地下2層構造の駅舎は、地中連続壁を本設壁として逆巻工法で建設を進めたが、こちらも既設水道管が大きなネックとなった。水道管のジョイント部をコンクリートで補強し、杭で支えると同時に上部から吊り下げて防護して無事にクリアできた。現在、駅舎はプラットフォーム床のコンクリ打設が大詰めを迎えている。
シールドマシンの到達を待つ |
もう1つの大きな課題は、現地で初となるシールド工事だ。経験のないスタッフやワーカーが大半のため、事前に教育を進めながらシールドマシンの発進に備えた。円借款事業のため、現地への技術移転という意義もある。9月のシールド発進式典では、ジョコ・ウィドド大統領が発進のスイッチを押した。
シールドマシンの1号機は10月5日に工区南側の立坑から発進し、スディルマン通り直下を325m掘進してスナヤン駅に近く到達する予定だ。その後、イストラ駅に向かって再発進するための準備工事に着手する。続く2号機は11月10日に同じ立坑からスナヤン駅に向かって発進した。今後は平均月進250mの達成を目指す。セグメントは、インドネシアと周辺国で20年以上の実績を持つピーエス三菱の関連会社から調達している。
この現場では、毎週木曜日に市民や学生を対象とした現場見学会を開催中で、来場者は延べ約1000人。大学生の関心も高く、「現地人技術者の確保につながれば」(清水建設国際支店の大石哲士ジャカルタ営業所長)との思いもある。
大迫一也建設所長(清水建設JV) |
MRTプロジェクトの案件形成には当時、一等書記官として現地に赴任していた国土交通省の池光崇官房広報課長も深く携わった。池光課長は「当時は商社やゼネコンの方々と一緒になり、まさにオールジャパンで案件形成に奔走した」と振り返る。その上で、「日・インドネシア協力の象徴であり、建設工事が最盛期を迎えて感無量だ」と話す。
現地はもちろん、インフラ輸出を加速させたい日本も含め、多方面から大きな期待が寄せられている。大迫所長は「期待に応えるべく完成させたい」と力を込める。
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