世界の貧困を土木技術を使って無くすことを目的に設立したNPO法人道普請人。その事業予算を8年間で50倍まで拡大させた京大大学院の木村亮教授は、大学教官であり土木工学研究者という顔と、NPO法人理事長として土木を起点に貧困撲滅に取り組む社会起業家という2つの顔を持つ。異色の存在である木村教授は、建設業界でも広がるNPO活動や、土木技術者の役割についてどう考えているのか。
--NPO活動について
「建設会社OBの方たちがNPO活動を行うケースも増えている。ただ、はっきり言えば(NPOという)枠をつくっても、3年も経てば誰もそのNPOに見向きもしなくなり、寄付も3年後にはしてくれないということが多いのも事実だ」
「要は、退職前や退職後に第二の人生として立ち上げたNPOが3年後も存続できるということは難しいというのが実態。その理由は、多くのNPOで経営的感覚がほぼゼロだからだろう。極端に言えば、寄付に“おんぶにだっこ”だからだ」
「だから、もし土木技術者たちが海外で活動をしようとするなら、アジア開発銀行などワールドバンクから資金調達することが必要であり、国内の学会や業界団体などからの寄付に頼っていては、活動は決して長続きしない。例えが悪いかもしれないが、タコが自分の足を食べるようなもので、業界外からいかに資金を調達するかを考えるべきだと思う。わたしが理事長を務めるNPOはいま、年間予算が1億5000万円あるが、業界からの寄付は500万円程度で、それもわたしをサポートしてくれているものと理解している」
--NPOに経営感覚を持たせるには何が必要か
「私が設立したNPOは300万円からスタートした。8年で年間予算1億5000万円まで拡大したのは、事業を受託もしくは助成してもらっていることが大きい。貧困の農村地域でやる気と自信を引き出すために、住民自らが土木作業を行って自分たちで道を直せるという意識を広げることで、世界の貧困を無くすという目的がぶれていないからこそ、国際機関などを始めわたしたちの活動が理解されたからだと思う」
「もう1つ大事なことは、住民、相手国行政、コンサルタントなどをつなぎコーディネートする役割だ。そのためにはシニア世代の土木技術者だけで活動するのではなく、各世代の集団がそれぞれ活躍できる仕組みが必要だと言える」
--建設産業界は担い手確保・育成、生産性向上の課題に直面している
「給料は安いし休みがないから人が確保できないというが、給料を高くして休みを決めればいい話だ。給料が高ければ職人は必ず集まるし、休みだって理髪店や美容院は組合で休日を決めている。建設業界だって全国団体、各地域にも業界団体があるから、団体が主導して月曜日なり休日を決めるというように社会を動かしていかなければ問題は解決しない」
「この問題は関西弁で言うと“ぐじぐじ”しているように思えてならない。しかしそのような建設業であってはならない。これは恩師から言われた言葉だが、“スカッとさわやか”な建設業であってほしい」
「もう1つ建設業界に対して主張したいのは、外部の声に耳を傾けるということだ。例えば最近、大手旅行会社から『建設現場の見学は金を出しても参加する』と言われたことがある。どうやってものが造られているか、興味があると言う。さらに『現場見学会を行わないのは、宝の持ち腐れ』とも言われた。業界は、ものづくりの過程が宝だとは思っていないわけで、このギャップを埋めていくことを考える必要がある」
--生産システムでは技術者の役割を含め課題も指摘されている
「いまは問題が起きると、発注者の技術者も責任回避する傾向にある。受注企業も同様だが、業務が細かく線引きされていることを理由に、責任を回避する傾向にあるのは大きな問題だ。特に、発注者の中には、昇進するにつれ自分は技術はもうから分からないからと平気で言う人もおり、それは非常に問題だと思っている。この問題の背景には、行政とゼネコンも業務の線引きが狭くなっていることがあると思う。先人の土木技術者は水の専門家も土のことを知っていた。今は業務範囲が余りにも狭くなっていることが問題かもしれない」
「もう1つ主張したいのは、土木の仕事をおもしろがって取り組まないと、新しい風も吹かないし変革も起きないということだ。例えばビデオカメラなどは技術革新でどんどん小さくなっているが、建設業界でこうした技術革新はない。大きなものは大きなままだし、需要があり問題がないなら変える必要がないと考えているのが建設業界ではないか」
「ただ、いまの若者には特異な 2007年に木村教授が、「土のうによる道直し」と「自分たちの道は自分たちで直す」をコンセプトに設立。世界の貧困地域の道路は未舗装で、雨季になると泥田状態で通行も出来ない状態になる。代替道路もなく、収穫した作物を市場に運べなかったり、通学や病院にも行けない問題があった。
そのため、未舗装道路に現地材料を土のうに詰め、路盤材として地元住民が人力施工で敷き詰めていくことで、道を共有財産として認識することになる。また、維持管理も行うなど、住民のやる気と自信を引き出し、道以外のインフラ問題も自分たちで解決することで、貧困削減につなげるのが狙い。
14年11月時点でアフリカやミャンマーなどで12万1227mを補修、500円で1m直せるという。発想がある。だから若者の発想をうまく使う大人が必要かもしれない。世の中が変化している以上、業界も変わらなくてはならないし、その時若者の意見を聞くことが必要だ」
■横顔
本人曰(いわ)く「理解者も多いが敵も多い。でもそんなことを気にしていたら、新しいことはできない」。土木技術者が行うNPO活動や土木技術者のあり方、建設業界に対する注文を、関西弁で歯に衣着せぬ発言をし続けるのは、海外のNPO活動で貧困と土木を結びつけた事業に携わったことで、直接住民に感謝される土木の存在価値を強く認識している自信の表れかもしれない。だからこそ、若者の建設業界離れに対しても「直接、住民から感謝される機会が国内でもっとあれば、その喜びでもっと業界に入ってくるはず」と強調する。55歳。
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--NPO活動について
「建設会社OBの方たちがNPO活動を行うケースも増えている。ただ、はっきり言えば(NPOという)枠をつくっても、3年も経てば誰もそのNPOに見向きもしなくなり、寄付も3年後にはしてくれないということが多いのも事実だ」
「要は、退職前や退職後に第二の人生として立ち上げたNPOが3年後も存続できるということは難しいというのが実態。その理由は、多くのNPOで経営的感覚がほぼゼロだからだろう。極端に言えば、寄付に“おんぶにだっこ”だからだ」
「だから、もし土木技術者たちが海外で活動をしようとするなら、アジア開発銀行などワールドバンクから資金調達することが必要であり、国内の学会や業界団体などからの寄付に頼っていては、活動は決して長続きしない。例えが悪いかもしれないが、タコが自分の足を食べるようなもので、業界外からいかに資金を調達するかを考えるべきだと思う。わたしが理事長を務めるNPOはいま、年間予算が1億5000万円あるが、業界からの寄付は500万円程度で、それもわたしをサポートしてくれているものと理解している」
--NPOに経営感覚を持たせるには何が必要か
「私が設立したNPOは300万円からスタートした。8年で年間予算1億5000万円まで拡大したのは、事業を受託もしくは助成してもらっていることが大きい。貧困の農村地域でやる気と自信を引き出すために、住民自らが土木作業を行って自分たちで道を直せるという意識を広げることで、世界の貧困を無くすという目的がぶれていないからこそ、国際機関などを始めわたしたちの活動が理解されたからだと思う」
「もう1つ大事なことは、住民、相手国行政、コンサルタントなどをつなぎコーディネートする役割だ。そのためにはシニア世代の土木技術者だけで活動するのではなく、各世代の集団がそれぞれ活躍できる仕組みが必要だと言える」
--建設産業界は担い手確保・育成、生産性向上の課題に直面している
「給料は安いし休みがないから人が確保できないというが、給料を高くして休みを決めればいい話だ。給料が高ければ職人は必ず集まるし、休みだって理髪店や美容院は組合で休日を決めている。建設業界だって全国団体、各地域にも業界団体があるから、団体が主導して月曜日なり休日を決めるというように社会を動かしていかなければ問題は解決しない」
「この問題は関西弁で言うと“ぐじぐじ”しているように思えてならない。しかしそのような建設業であってはならない。これは恩師から言われた言葉だが、“スカッとさわやか”な建設業であってほしい」
「もう1つ建設業界に対して主張したいのは、外部の声に耳を傾けるということだ。例えば最近、大手旅行会社から『建設現場の見学は金を出しても参加する』と言われたことがある。どうやってものが造られているか、興味があると言う。さらに『現場見学会を行わないのは、宝の持ち腐れ』とも言われた。業界は、ものづくりの過程が宝だとは思っていないわけで、このギャップを埋めていくことを考える必要がある」
--生産システムでは技術者の役割を含め課題も指摘されている
「いまは問題が起きると、発注者の技術者も責任回避する傾向にある。受注企業も同様だが、業務が細かく線引きされていることを理由に、責任を回避する傾向にあるのは大きな問題だ。特に、発注者の中には、昇進するにつれ自分は技術はもうから分からないからと平気で言う人もおり、それは非常に問題だと思っている。この問題の背景には、行政とゼネコンも業務の線引きが狭くなっていることがあると思う。先人の土木技術者は水の専門家も土のことを知っていた。今は業務範囲が余りにも狭くなっていることが問題かもしれない」
「もう1つ主張したいのは、土木の仕事をおもしろがって取り組まないと、新しい風も吹かないし変革も起きないということだ。例えばビデオカメラなどは技術革新でどんどん小さくなっているが、建設業界でこうした技術革新はない。大きなものは大きなままだし、需要があり問題がないなら変える必要がないと考えているのが建設業界ではないか」
「ただ、いまの若者には特異な 2007年に木村教授が、「土のうによる道直し」と「自分たちの道は自分たちで直す」をコンセプトに設立。世界の貧困地域の道路は未舗装で、雨季になると泥田状態で通行も出来ない状態になる。代替道路もなく、収穫した作物を市場に運べなかったり、通学や病院にも行けない問題があった。
そのため、未舗装道路に現地材料を土のうに詰め、路盤材として地元住民が人力施工で敷き詰めていくことで、道を共有財産として認識することになる。また、維持管理も行うなど、住民のやる気と自信を引き出し、道以外のインフラ問題も自分たちで解決することで、貧困削減につなげるのが狙い。
14年11月時点でアフリカやミャンマーなどで12万1227mを補修、500円で1m直せるという。発想がある。だから若者の発想をうまく使う大人が必要かもしれない。世の中が変化している以上、業界も変わらなくてはならないし、その時若者の意見を聞くことが必要だ」
■横顔
本人曰(いわ)く「理解者も多いが敵も多い。でもそんなことを気にしていたら、新しいことはできない」。土木技術者が行うNPO活動や土木技術者のあり方、建設業界に対する注文を、関西弁で歯に衣着せぬ発言をし続けるのは、海外のNPO活動で貧困と土木を結びつけた事業に携わったことで、直接住民に感謝される土木の存在価値を強く認識している自信の表れかもしれない。だからこそ、若者の建設業界離れに対しても「直接、住民から感謝される機会が国内でもっとあれば、その喜びでもっと業界に入ってくるはず」と強調する。55歳。
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