2016/09/17

【インタビュー】縮小社会時代の建築家像 空間-経済、発注者-実務者つなぐ 藤村龍至氏


 「建築家が設計することで、建築の『質』が上がる」。発注方式が多様化し、改めて設計者の意義が問われる中で、建築家の役割をそう語る設計者は少なくない。では、これから建築家はどのような「質」を担保していくべきなのか。建築家として、行政や大学と一体となった設計手法を模索する藤村龍至氏(東京芸大建築科准教授、RFA主宰)に聞いた。

 「発注方式が変化する時期は、専門家への期待が高まる時期でもある」。建築家は社会の要請に応えてその役割を変化させてきたが、発注方式の変化がその大きな一因になると指摘する。建築家・丹下健三が高度経済成長期の人口増に対応する建築家像を示したように、「人口減の時代を迎え、ストック活用をするための新しい建築家像が必要になっている」と語る。

◆公益的な第三者
 いま、建築家に求められているのは「高度経済成長期の無限の成長と投資を前提とした開発ではなく、合意形成や計画を実現する公益的な第三者の立場」だ。将来の実現性に配慮し、発注者と実務者の間をつなぐ専門家としての役割を建築家は果たさなければならないと見通している。
 「ストック活用という新しい社会的なニーズが生じているが、発注者にとって、そのノウハウは発展途上」だからこそ、「そうした課題を解決するために何ができるかを建築家が示す必要がある」と指摘する。新たな都市モデルを構築するには建築の専門家としての知見を生かす余地があるとみる。
 ただ、大学の建築教育の現場ではコンセプト重視の傾向は変わらず、「住まいとは何か」といった禅問答のような建築教育もある。「かつては、新しい生活のイメージを示すコンセプトデザイナーとしての建築家がもてはやされた時代もある。しかしいまは、縮小社会の時代なりの建築家像がある」と強調する。

◆空間と経済の関係
 重視するのは、空間と経済の関係だ。これまで行政では、第三者的な立場からの検証や検討を学識経験者を取り入れることで実施してきたが、それでは対応し切れない事例も増加している。
 特に、近年注目の集まるリノベーション設計では「最も重要なのは事業企画であり、リノベーションした施設を継続的に活用するには建築家もリスクを取って産業を興していく必要がある」と語る。事業企画の教育は従来型の建築教育からは離れた内容になるが、「数値目標を示す経済」と「実際の形に落とし込む建築」という強みの歩み寄りがさらに重要になるとし、「社会は建築に世の中の課題を形にして整理することを期待している。社会的な課題を解決するには、専門家に何ができるかを示していく必要がある」と力説する。

6月に行われた「空き家・空き地コンペ」

 6月に開催した日本建築家協会(JIA)関東甲信越支部大会では、前橋市を対象地域にした「空き家・空き地コンペ」の審査委員長を務めた。JIA群馬地域会がハブとなって行政と地元をつなぎ、大学やJIA、建築士会、地元住民などが参加してエリア再生プロジェクトを検討した。
 「建築家、行政、市民が自らの新しい役割を自覚するコンペだった。建築家が新しい専門家としての役割を果たし、行政が新しい開発のイメージを持ち、市民が(建築・都市への)意識を高めるためのモデルを示すことができた」と手応えを口にし、「受注体質に安住していては建築家の役割は失われていく。こうした取り組みを全国で展開し、建築の専門家たちが公益な役割を果たしていく必要がある」と見据える。
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