2016/06/05

【都市を語る】複数エリアが連携する結節点としての「多核心型」都市 大草徹也氏(三菱地所設計)


 これまで『丸の内オアゾ』(2004年)や『パレスホテル東京』(12年)、台湾の『台北南山広場』(17年竣工予定)など国内外で多くの超高層プロジェクトに携わってきた大草氏は、その設計においては「都市の結節点として周辺をどうつなぐかが重要な役割」であると指摘する。完成すれば日本一の高さとなる常盤橋街区再開発においても、日本橋と八重洲をつなぐ接点として周辺街区を含めた拠点となることが期待されている。「バブル期の東京一極集中の反省から都市を地方へ分散する方策が出されたが、結果としてアジアの諸都市と比較して国際的な競争力は弱体化した。複数の都市エリアが連携する多核心型のまちづくりが不可欠だ」と強調する。

 多核心型のまちづくりの中心となるのが、都市のランドマークとしての超高層ビルとその足元に整備された広場の存在だ。「ベースとなるのは中低層建築だが、それだけでは都市の中心がない。欧州の都市の中心に尖塔と広場があるのと同じように、土地の高度利用によって都市の中に人々が集う広場が生まれる」という。
 都市の表情を変えるシンボリックな建築は批判されることも多いが、広場を整備することで人の流れが変わり、周辺地区との連携やにぎわいの創出、老朽化した都市インフラの更新など都市問題の改善も期待できる。「シンボリックな超高層建築を中心に都市が有機的につながることで新しい価値が創造できる。単に床をつくるだけでなく、社会問題への解を示し地区全体のブランドを高めることができる」と語る。

三菱地所設計が設計する台北南山広場。2017年竣工予定

 一方で、超高層建築における公共空間は地表階の広場に限定され、内部の空間が画一化してしまう課題もある。大草氏は将来の超高層建築の姿として、「超高層の公共性を平面だけに止めるだけでなく、立体的に空間を活用したい」と提起する。オフィス・商業・住宅といった異なる機能を分けるのではなく、それぞれを重ねることで従来型のグラウンドレベルの公開空地整備にとどまらない立体的な公共性が生まれ、中間層や最上階にも人々を呼び込むことができるというわけだ。「異なる用途を複合し、異なる目的を持った人々が出会う環境を整えることで、新しい価値が生まれるのではないか」とみる。
 また、長期的な使用を見据え、100年後を見通した可変性を持たせる重要性を指摘する。「10年後、20年後にオフィスがどうなっているのかは誰にも分からない。最初から用途を限定せず、新しいワークスタイルやライフスタイルを創造する空間づくりと将来的な変化に追随できる可変性の両方を持ち合わせた空間が必要だ」という。
 時に超高層建築は、極端な都市化の象徴として批判の矢面に立たされてきた。しかし大草氏は、「超高層建築の役割がなくなることはない」と力強く語る。「カーテンウオールは日本最初の高層建築である霞が関ビルで採用されてから全国に広がっていった。新しい建築には挑戦が必要で、その挑戦が別の場所、別の建築で発展していく副次的な意味もある。超高層建築で公共性、環境共生、構造形式、アーバンデザインなど多くの課題にチャレンジすることが次の技術へとつながり、新しい価値が生まれる」
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【インタビュー】建築学会作品部門受賞者に聞く 『竹林寺納骨堂』の堀部安嗣さん  「強いテーマ性を持った建築はナンセンスだ」。『竹林寺納骨堂』(高知市)で学会賞作品部門を受賞した建築家の堀部安嗣氏(堀部安嗣建築設計事務所)は、自らの設計姿勢をこう表現する。 重視するのは「無力さの上に立った創造」だ。これまでにない素晴らしい建築をつくりたいという建築家としての欲望には理解を示しつつも、成熟社会では「既にあるものをさらに成熟させる役割も非常に重要だ」と強調する。  その上で、「これまで建築家は課題をどう解決し、世界を… Read More
  • 【実録】社長交代の戸田建設 井上社長と今井次期社長の一問一答  6月下旬に退任する戸田建設の井上舜三社長、社長に就任する今井雅則常務執行役員大阪支店長は12日、同社本社で会見した。要旨は次のとおり。 ◇役員人事  井上社長 「来期以降の採算回復に向けて一定の道筋は付けられた。今後、このような取り組みの成果をスピーディーかつ確実なものにするためには、来期より新体制の下、再スタートを切ることが重要と判断し、昨年の10月以降、後任の選定を進めてきた。当社の最大の課題は、主力の建築部門を早急に立て直す… Read More
  • 【南極越冬隊】「26人を生きて帰す」設営主任の重責担う 関電工・加藤直樹さん  関電工の加藤直樹さん(東関東営業本部千葉支社)が、第56次南極地域観測隊越冬隊の任務を終えて帰国した。第48次に続き2回目となる今回は、観測と設営の2つのグループのうち、設営のトップとなる主任を務めた。「火事が起きようが、停電になろうが、次の船『しらせ』が来るまで生きて帰さないといけない。人の命を預かる総括的な立場のため、行く前はプレッシャーで、1週間くらい寝られないこともあった」と明かす。  初めての参加は、2006年11月からの越冬… Read More
  • 【インタビュー】グリーン(自然)とグレー(コンクリート)は融合するか 大阪府立大・増田昇教授に聞く  近年、自然生態系がもつ多面的機能を利用した社会資本整備などを行うグリーンインフラストラクチャー(グリーンインフラ)という概念が注目されている。グレーインフラ(コンクリート構造物)の整備を担ってきた建設業界には、グリーンインフラの分野でも活躍することが求められており、グレーとグリーンのインフラをうまく融合させることができれば、これまで以上の整備効果を得ることも可能となる。大阪府立大大学院の増田昇教授に大阪におけるグリーンインフラの可能性な… Read More
  • 【インタビュー】“2重の要求”満たす医療・福祉建築を 建築家 針生承一氏に聞く  東北を拠点に活躍している建築家の針生承一氏(針生承一建築研究所主宰)が古川医療設備振興財団(大阪府吹田市、古川國久理事長)の第3回医療福祉等施設設備功労者顕彰に選ばれた。1981年の独立以来、時間・空間・人の織り成す境界がなだらかに連続・結合するような“際(きわ)”の空間デザインへの美学が、医療・福祉分野からも高い評価を受ける針生氏に話を聞いた。  針生氏と医療・福祉建築分野とのかかわりは、肢体不自由児施設の建築的計画の研究に取り… Read More

0 コメント :

コメントを投稿