2016/07/06

【土木展】専門外作家が見せる土木の魅力 ディレクター・西村 浩氏に聞く


 「見えない土木」が支える「見えにくい日常」を“自分事”として見つめ直すきっかけにしてほしい--。東京都港区の21-21DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)で開催されている「土木展」のディレクターを務める建築家の西村浩氏(ワークヴィジョンズ代表)は、企画の意図をこう語る。専門外のアーティストやデザイナーらが参加した、かつてない構成の展示会場は、生活環境そのものと言っていい「土木」の行為と魅力をリアルに実感できるものとなっている。写真左が西村浩氏、右は内藤廣氏

 「どぼくとぼく」。昨年夏、西村氏にこの展覧会ディレクターを打診した内藤廣氏からの電子メールの一節だ。日常生活を送るのに必要不可欠でありながら、普段は意識することも少ない。こうした土木を「遠い世界のことではない。身近な世界として感じてほしい」という思いが込められている。その年の秋の打ち合わせで西村氏は「僕らがやってきたようなデザインの展覧会はやらない」と宣言したという。「専門家による専門家のための展覧会では社会に伝わらない。土木の“編集”の仕方を変えてみよう」と。
 それは「言ってみればレコードのB面」であり、「メーンのA面より印象に残る名曲が多い。取っつきやすいB面から入ってもらって、結果としてA面のこともちゃんと知ってもらおう」と、あえて専門外の参加作家が感じた「土木の世界」を表現してもらうことで、より社会に対する「入り口」を広げた。

ほる・つむ・はかる…。「土木の行為」をわかりやすく伝える

 会場の一角には、関東大震災からの復興の一環として隅田川に架けられた永代橋の設計図が壁一面に張られている。その手書きの図面は「ボルト一本まで考えながら丁寧に設計された」ものだ。その後の戦争の時代から戦後の高度経済成長期を経て社会の価値観は大きく変容していった。「明治維新当時の日本の人口は3300万人。それから130年で9000万人増えた」。まさに右肩上がりの時代。「いかに大量にスピード感をもって整備するか。そのためには専門性が大事だった。さまざまなジャンルで同時並行して考えていく。縦割りの仕組みは右肩上がりの社会を成立させるためには必要だった」と分析する。

「土木オーケストラ」は高度経済成長期と現代の土木現場の映像と音で構成した

 いま人口減少・超高齢社会に直面する中で、「これからの社会は複合的に考えて問題を解決することが求められる。まさに都市の時代であり、これまでとは真逆な、計画して造り使うのではなく、使いながら実験的に取り組み、その中から生まれる新しい社会のあり方を共有していくことが大事になる」と指摘。さらに東日本大震災の復興現場の映像を通して「自然とどう向き合うべきか」を突きつける。「文明は幸せをもたらしたのか、これからの時代はどうあるべきか。ここに答えはない。自分自身で思いを巡らせてほしい」と。
 
◆トークイベント 境界越え興味・感動を!


 2日に開かれたオープニングイベントでは、ディレクターの西村氏と企画協力の内藤氏、土木写真家で参加作家の西山芳一氏、それに展覧会のグラフィックデザインを担当した柿木原政広氏が「これからの土木、これからの都市」をテーマに語り合った=写真。この中で柿木原氏は「土木はすごい荒々しいところと繊細さが同居している。今回のデザインでもダイナミックな見え方と同時に文字詰めや行間の選び方はすごく丁寧にやった。そこが重要なポイントではないかと思った」と、“見えない土木”の表現について語った。西山氏も「とにかく見てもらわないと何も変わらない。今回の展示を見て、本当の土木を見たいと思える展覧会になってほしい」と期待を寄せた。会場の参加者から土木を志す若者へのメッセージを求められた内藤氏は「境界を越えて興味を持つこと。真面目に勉強しなくてもいいから、まず感動すること。それだけで十分。感動することで勉強もしたくなる」とエールを送った。
 
◆土木展概要
 展示会場は「土木写真家 西山芳一が選ぶ名土木マップ」をイントロダクションに、「都市の風景」「土木オーケストラ」「土木の行為」「土木を愛する」「日本一・世界一」「土木と哲学」などで構成。土木のエキスパートたちによる企画チームと気鋭の建築家ユニットやデザイナー、アーティスト、また日本左官会議など幅広い参加作家とのコラボレーションにより、多様なインスタレーションや体感型の作品を通じて土木をより身近に感じることができる。
 会期は9月25日まで(火曜日休館)。開館時間は午前10時-午後7時。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【常総市水害】日ごとに変わる、工程表のない作業…地域に根ざす茨城建協の奮闘  関東・東北豪雨に伴い、10日に発生した鬼怒川堤防の決壊・越流などで大きな被害が出た茨城県常総市。国土交通省などの24時間態勢による排水作業などで、宅地や公共施設などの浸水が解消されたものの、その傷跡は大きく、市内各所で泥やゴミの撤去、道路清掃などの作業などが進められている。地域建設業の要として、復旧対応を担う茨城県建設業協会常総支部(新井淳一支部長)会員企業は最前線で奮闘している。写真は常総市三坂町の土砂撤去の様子。  支部長会社である… Read More
  • 【宮城建協】地域を守る! 東日本豪雨で会員企業153社から1629人が出動  宮城県建設業協会(佐藤博俊会長)は、台風18号などに伴う東日本豪雨災害への初動対応状況をまとめた。それによると、会員企業延べ153社が国と県、市町村との災害協定に基づき、延べ1629人を出動させた。重機はバックホウやダンプトラックなど、延べ819台で対応に当たった。写真は国道48号線の法面崩落対応の様子。  同災害では、県管理河川の渋井川(大崎市)の堤防決壊を始め、11河川21カ所で破堤や氾らんによる被害が発生した。こうした中、同協会会… Read More
  • 【現場最前線】深さ69m! 外環東名JCTに大深度トンネル立坑完成、シールド機発進へ  国土交通省関東地方整備局、東日本高速道路関東支社、中日本高速道路東京支社が進める東京外かく環状道路事業の東名ジャンクション(JCT)(仮称)で本線シールド機を発進する、深さ約70mの大深度地下のトンネル立坑工事が完成した。25日、東京都世田谷区の現地で報道関係者を対象とした見学会が開かれた。立坑工事は中日本高速道路東京支社が発注し、施工は清水建設・熊谷組JVが担当する。今後は2015年度中のシールド機組み立てを目指しており、16年度にト… Read More
  • 【復興特別版】室浜トンネル、3カ月で貫通! 県道吉里吉里釜石線は17年度開通予定  震災の津波により避難路が浸水したため、長期間にわたり孤立化した岩手県釜石市室浜地区。この室浜地区から同市片岸地区で国道45号にアクセスする県道吉里吉里釜石線の改良工事の一環として、県が整備を進めている室浜トンネルが待望の貫通を迎え、16日に現地で式典が開かれた。施工はピーエス三菱・近江建設JV。今後、覆工コンクリートや舗装工事などを進め、2016年3月の完成を目指す。写真は、貫通点で万歳三唱する森島修ピーエス三菱東北支店長(右から2人目… Read More
  • 【九州地整】土木遺産を“生かす” 筑後川デ・レイケ導流堤橋脚工事  筑後川の土木歴史遺産デ・レイケ導流堤の一部に橋脚を設置する筑後川橋工事が国土交通省九州地方整備局で進められている。筑後川橋は機能維持やデザインなど導流堤に配慮した設計で、橋脚の着工に向け現在は、謎が多い導流堤の内部構造を調査・記録している。土木歴史遺産に配慮し、“生かす”公共事業が展開されている。  デ・レイケ導流堤は、筑後川下流域でがた土の堆積を防止し、航路の確保を目的に築造された石堤で、長さ6.5㎞は同時期築造の導流堤の中で最も長い… Read More

0 コメント :

コメントを投稿