「見えない土木」が支える「見えにくい日常」を“自分事”として見つめ直すきっかけにしてほしい--。東京都港区の21-21DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)で開催されている「土木展」のディレクターを務める建築家の西村浩氏(ワークヴィジョンズ代表)は、企画の意図をこう語る。専門外のアーティストやデザイナーらが参加した、かつてない構成の展示会場は、生活環境そのものと言っていい「土木」の行為と魅力をリアルに実感できるものとなっている。写真左が西村浩氏、右は内藤廣氏
「どぼくとぼく」。昨年夏、西村氏にこの展覧会ディレクターを打診した内藤廣氏からの電子メールの一節だ。日常生活を送るのに必要不可欠でありながら、普段は意識することも少ない。こうした土木を「遠い世界のことではない。身近な世界として感じてほしい」という思いが込められている。その年の秋の打ち合わせで西村氏は「僕らがやってきたようなデザインの展覧会はやらない」と宣言したという。「専門家による専門家のための展覧会では社会に伝わらない。土木の“編集”の仕方を変えてみよう」と。
それは「言ってみればレコードのB面」であり、「メーンのA面より印象に残る名曲が多い。取っつきやすいB面から入ってもらって、結果としてA面のこともちゃんと知ってもらおう」と、あえて専門外の参加作家が感じた「土木の世界」を表現してもらうことで、より社会に対する「入り口」を広げた。
ほる・つむ・はかる…。「土木の行為」をわかりやすく伝える |
会場の一角には、関東大震災からの復興の一環として隅田川に架けられた永代橋の設計図が壁一面に張られている。その手書きの図面は「ボルト一本まで考えながら丁寧に設計された」ものだ。その後の戦争の時代から戦後の高度経済成長期を経て社会の価値観は大きく変容していった。「明治維新当時の日本の人口は3300万人。それから130年で9000万人増えた」。まさに右肩上がりの時代。「いかに大量にスピード感をもって整備するか。そのためには専門性が大事だった。さまざまなジャンルで同時並行して考えていく。縦割りの仕組みは右肩上がりの社会を成立させるためには必要だった」と分析する。
「土木オーケストラ」は高度経済成長期と現代の土木現場の映像と音で構成した |
いま人口減少・超高齢社会に直面する中で、「これからの社会は複合的に考えて問題を解決することが求められる。まさに都市の時代であり、これまでとは真逆な、計画して造り使うのではなく、使いながら実験的に取り組み、その中から生まれる新しい社会のあり方を共有していくことが大事になる」と指摘。さらに東日本大震災の復興現場の映像を通して「自然とどう向き合うべきか」を突きつける。「文明は幸せをもたらしたのか、これからの時代はどうあるべきか。ここに答えはない。自分自身で思いを巡らせてほしい」と。
◆トークイベント 境界越え興味・感動を!
2日に開かれたオープニングイベントでは、ディレクターの西村氏と企画協力の内藤氏、土木写真家で参加作家の西山芳一氏、それに展覧会のグラフィックデザインを担当した柿木原政広氏が「これからの土木、これからの都市」をテーマに語り合った=写真。この中で柿木原氏は「土木はすごい荒々しいところと繊細さが同居している。今回のデザインでもダイナミックな見え方と同時に文字詰めや行間の選び方はすごく丁寧にやった。そこが重要なポイントではないかと思った」と、“見えない土木”の表現について語った。西山氏も「とにかく見てもらわないと何も変わらない。今回の展示を見て、本当の土木を見たいと思える展覧会になってほしい」と期待を寄せた。会場の参加者から土木を志す若者へのメッセージを求められた内藤氏は「境界を越えて興味を持つこと。真面目に勉強しなくてもいいから、まず感動すること。それだけで十分。感動することで勉強もしたくなる」とエールを送った。
◆土木展概要
展示会場は「土木写真家 西山芳一が選ぶ名土木マップ」をイントロダクションに、「都市の風景」「土木オーケストラ」「土木の行為」「土木を愛する」「日本一・世界一」「土木と哲学」などで構成。土木のエキスパートたちによる企画チームと気鋭の建築家ユニットやデザイナー、アーティスト、また日本左官会議など幅広い参加作家とのコラボレーションにより、多様なインスタレーションや体感型の作品を通じて土木をより身近に感じることができる。
会期は9月25日まで(火曜日休館)。開館時間は午前10時-午後7時。
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