2015/08/01

【今日は水の日】時代とともに変化する水問題を「水の天使」が聞く

8月1日は「水の日」。ことしも1日から1週間は「水の週間」としてその前後を含めて全国でさまざまな行事が展開される。目的は、健全な水循環の重要性、水資源の有限性、水資源開発の重要性を啓発するためとし、ことしで39回目を迎える。中央行事の「水を考えるつどい」は1日、東京都渋谷区の国連大学で開かれ、初のロゴマークの発表や著名人によるトークショーなどがある。この水の日に合わせて、水の週間実行委員会会長の虫明功臣氏(日本河川協会会長)に水問題の現状と課題などを聞いた。聞き手はミス日本「水の天使」の柴田美奈さん=写真。

 柴田 まず、ことしの「水の週間」の特徴などについてお聞かせ下さい。
 虫明 毎年のメーンの中央行事として、ことしも「水を考える集い」が1日午後、東京都渋谷区の国連大学国際会議場で開かれます。総理大臣メッセージのほか「全日本中学生水の作文コンクール」表彰式、著名人によるトークショーがあります。ここにはミス日本「水の天使」の柴田さんも参加されるのですね。
 ことし初めて実施した「水循環ロゴマーク」の公募の結果発表もこの日に行います。選定したロゴマークは内閣府の水循環政策本部を始め、関係府省の水関連イベントに積極的に使うことになります。全国から1457通の応募があったと聞いています。
 柴田 ロゴマークができるのですか。素晴らしいですね。楽しみです。
 虫明 さらに昨年から力を入れ始めているのが、「上下流交流」です。水資源開発が始まった当初から、上流の方々への感謝の気持ちを持つことが理念としてありましたが、こうした考えを再確認するため、ダム水源地域などの上下流住民の交流を促進する活動に対して助成するものです。ことしは30団体ほどが対象になっています。
 このほか、水資源功績者表彰、水の週間一斉打ち水大作戦、水とのふれあいフォトコンテスト、水のワークショップなどが展開されます。
 柴田 次に水問題の歴史と現状についてお話しいただけますか。
 虫明 水問題は時代の変化とともに姿を変えて現れます。第2次大戦後の復興期、急激な人口増加と3大都市圏への集中期、工業化と経済発展期、そして少子高齢化・人口減少期。今は、水インフラの老朽化と地球温暖化への対応が急がれています。
 簡単に振り返ってみますと、戦後復興期には、毎年のように大型台風が襲来し、深刻な水害が発生しました。加えて食料不足と電力不足。その後、高度経済成長期には水不足と同時に水域汚染と公害が発生しました。隅田川の水質汚染による悪臭の発生はわたしも大学時代に経験しました。都市水害の激化や山地災害も増えて、その対策も災害を経るたびに進化していったといえます。近年は、地球温暖化による想定外水害への対応、上下水道管など水インフラの老朽化対策が重要になっているといえます。河川の環境基準達成率は上昇傾向にあり、湖沼も改善の兆しが見られますが、達成率は低いです。
 柴田 水問題が時代とともに変わってきていることが分かりました。気候変動に伴う今後の水問題をもう少し教えていただけますか。
 虫明 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)という国際組織が出す報告書がありまして、2007年の第4次報告書では、過去半世紀の気温上昇のほとんどが、人為的温暖効果ガスの増加による可能性が高いとしました。14-15年の第5次報告書では、温暖化は確実に進行、海面上昇は第4次より厳しい見通しを示しています。
 虫明 IPCCが温暖化は確実に進んでいると指摘したことは重要です。豪雨の頻度と強度が増大しているのは確実です。降水現象の熱帯化とも言えます。毎年のように短時間豪雨の記録が各地で更新されています。一方で、渇水リスクが増大するという可能性もあります。一番の問題点は海面の上昇です。東北の復興では高台移転が重要課題になっていますが、国家百年の計として、ロードマップの下に順次具体化させることが必要です。
 柴田 虫明会長は「水循環」の重要性を古くから説いていらっしゃいます。昨年成立した「水循環基本法」を含めて具体的にお話しいただけるでしょうか。
 虫明 水循環(系)とはそもそもどういうことかと言いますと、水は、「気圏」「地圏」「水圏」そして「生態圏」「人間圏」を貫いて循環しています。その大気・土地・水と生態系・人間活動が織りなすシステムが水循環系です。ですから、人間活動によって水循環が変化していることを認識することが大切で、水政策も水循環系に基づいて総合的に進めなければならないわけです。
 もう20年ほど前になりますが、国土庁(現国土交通省)水資源部の諮問機関、水資源基本問題研究会が「健全な水循環系の構築」という提言を出しました。わたしが座長を務めさせていただいたのですが、この時に初めて水循環という言葉が水政策に本格的に使われました。
 そして昨年4月、議員立法で「水循環基本法」が成立しました。8月1日の「水の日」が同法に明記され、国民が健全な水循環の重要性について理解と関心を深めることをうたっています。内閣府水資源政策本部が具体的な施策となる「水循環基本計画」を策定し、ことし7月10日に閣議決定されました。
 基本法は、「流域を単位として、地表水と地下水、水量と水質を一体的に考えた健全な水循環系構築に向けての水マネジメント」と換言できます。法律の対象として重要な3つの事項があって、それは水源流域の保全・管理、地下水の適正利用、流域水循環保全計画を効果的・効率的に進める法的枠組みづくりです。
 基本計画は、こうした目的を実現するための施策になりますが、関連する多くの専門分野、中央政府、流域内地方自治体の連携・協働に向けての意識改革が何よりも求められると思っています。
 柴田 「水」というのは幅広く、かつ奥が深いことが分かりました。本日はありがとうございました。
 虫明 学生には「水」を勉強していると「人間性が豊かになる」と言っています。「水の天使」として、ぜひ「水循環」について社会に広く伝えていただければと思います。

◎主な行事
■水を考えるつどい
8月1日午後2時、東京都渋谷区の国連大学ウ・タント国際会議場。主催者開会あいさつ、「健全な水循環」にかかわるロゴマークの発表、水に関するトークショー(生島ヒロシ氏、マッハ文朱氏)など
■水のワークショップ・展示会 
8月12日-14日午前10時-午後5時、東京・丸の内の東京国際フォーラム。丸の内キッズジャンボリー(http://www.tif-kids.jp/2015/)の一部スペースで実施
■全日本中学生水の作文コンクール表彰式
1日の水を考えるつどいで
■水資源功績者表彰
8月3日午前11時、東京・霞が関の中央合同庁舎3号館
■一斉打ち水大作戦2015in国土交通省
8月3日、東京・霞が関の中央合同庁舎3号館正面玄関前

◎15年度水資源功績者表彰受賞者=敬称略
 〈個人〉
 ▽内藤久米男(福井県)=約30年間水道事業に携わり、多大な貢献をし、退職後も独自で地下水塩水化の研究を続け顕著な功績を残した
 ▽古屋佳浩(山梨県)=半世紀にわたり造林事業に従事。また、林業公社造林事業、保安林整備事業の推進にも携わり、 急峻(きゅうしゅん)な山岳地帯に優良造林地を造成し、水資源のかん養と保全に貢献した
 〈団体〉
 ▽岩手中部土地改良区(岩手県)
 ▽須賀川に清流を取り戻す市民の会(福島県)
 ▽多摩川源流研究所(山梨県)
 ▽尾張地域地下水保全対策協議会(愛知県)
 ▽豊川総合用水土地改良区(愛知県)
 ▽特定非営利活動法人かいろう基山(佐賀県)
 ▽一般財団法人化学及血清療法研究所(熊本県)
 ▽特定非営利活動法人大淀川流域ネットワーク(宮崎県)
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