小池百合子東京都知事が9月に都政改革本部への設置を表明した内部統制プロジェクトチーム(PT)。都庁の既存制度を総点検し、改善策を提案するのが狙いで、当面は入札契約制度のあり方などを検討する方針が示されていた。メンバーは同本部の特別顧問を務める外部有識者などで、その検討状況が1日に開かれた第3回都政改革本部会議で初めて明らかになった。写真は当日の会議後、マスコミに囲まれる小池知事
同日の会議では、内部統制PTのメンバーで都政改革本部の特別顧問を務める坂根義範弁護士が現段階の検討状況を報告。「“価格面での競争”という入札制度の根本主義に基づき、現状の制度と運用を虚心に見直す」と明言し、▽予定価格の事前公表▽1者入札▽総合評価方式の運用▽予定価格の妥当性▽最低制限価格制度▽特定調達・WTO(世界貿易機関)協定の運用--の6つを課題に挙げた。
課題のうち、最低制限価格制度については、築地市場解体工事をモデルケースに説明。同工事の開札結果を見ると、全4工区いずれも最低制限価格以下で入札したJVが複数あり、「一律失格となっているため、いくら安い価格で入札した業者がいても契約できない。本来はもっと安く契約できたのではないか」と疑問を呈した。
さらに「落札者と失格者の応札率の差はわずか1%であり、その程度の差で粗悪な工事が起こり得るのか」とも指摘し、「自社の技術力でぎりぎり可能な価格で応札するのが本来の価格競争であるべきなのに、最低制限価格の予想コンテストになっている」との見解を示した。
競争入札を行った場合、予定価格の範囲内で最低札のものを落札者とする「最低価格自動落札方式」が地方自治法の原則となっている。ただ、同法施行令では、例外として最低制限価格制度や低入札調査価格制度の導入を認めており、都道府県・政令市は工事全体の8-9割に最低制限価格を設定しているのが現状だ。
都が最低制限価格制度を導入している背景には「中小企業との契約が大部分を占め、ダンピングによる中小企業の疲弊や、下請重層構造の中での低価格受注による中小・零細企業へのしわ寄せを防止することが、自由な価格競争より重視すべきという考えが根底にある」(都財務局)。
しかし、内部統制PTの特別顧問らは、2015年度に99%以上の入札(予定価格250万円以上)で最低制限価格が設定されたことを指摘し、「原則と例外がひっくり返っている」と批判した。
15年度に99%以上の工事で最低制限価格が設定されたのは、入札不調対策の一環として、15年4月から3年間の限定で予定価格24億7000万円未満のWTO対象を除く全工事に最低制限価格制度を導入したためで、それまでは、予定価格が建築6億円未満、土木5億円未満、設備2億5000万円未満の工事に最低制限価格を設定していた。
この臨時的な措置により、15年度は、増加傾向にあった不調発生率が前年度比3.7ポイント減の9.8%に低下し、3年ぶりに1桁台となったほか、平均落札率も0.8ポイント減の91.1%と低下。都財務局は6月の都議会財政委員会で、臨時的措置を適用した価格帯の建築工事の入札参加者数に触れ、「14年度は1者入札の案件が58%を占めていたのに対し、15年度は34%と大幅に減少している」とし、「臨時的措置により、最低制限価格を積極的に活用するとともに、市場動向を反映した予定価格の設定と組み合わせることで、事業者の応札意欲が高まり、競争性の発揮という効果も表れるなど、最低制限価格制度の有効性を改めて確認することができた」と述べていた。
臨時的措置については、9月に開かれた都議会自民党の17年度予算などに対するヒアリングに出席した東京建設業協会も「入札不調対策として有効性が高く、また改正品確法の趣旨である『担い手の中長期的な確保』を図る観点からも有効」とし、18年4月以降も継続するよう要望している。
ただ、内部統制PTの特別顧問らによる指摘は、臨時的措置の効果を真っ向から否定するもので、「最低制限価格を一律に設定する運用を改め、原則どおり、『特に必要のあるとき』に限定すべき」と断じた。
また、モデルケースに取り上げた築地市場解体工事は、4工区に分かれているものの、「各工区の予定価格を合算すると約42億円で、『国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令』に定める『一連の調達契約』にも該当するため、WTO対象案件となり、そもそも最低制限価格を設定すべき案件ではなかったのではないか」とも指摘した。
一方、豊洲新市場の青果棟(5街区)、水産仲卸棟(6街区)、水産卸棟(7街区)の主要3棟建設工事を対象としたケーススタディーでは、1者入札と予定価格の事前公表に言及。「特定調達なのに99%台の落札率が頻発し、競争性が確保されていない」とし、「(高い落札率は)1者入札と予定価格の事前公表の組み合わせによって生じている」と分析。「都側は、参加資格確認申請の段階で1者入札を事前に把握できるため、入札延期などで1者入札を回避すべき」との見解を示した。
さらに「入札に参加する業者が、何らかの手段・方法を使って、もし自社しか応札しない1者入札だと事前に把握できれば、当然、事前に公表されている予定価格と同額、あるいは、それに極めて近似する価格で入札・落札し、著しく高い落札率になることは当然の帰結といえる」とも。
各工事が1回目の入札不調後、6割増しの予定価格で2回目の入札が行われたことにも触れ、「不調を恐れて過大に積算したのではないか」と疑問視した。
小池知事が内部統制PTの設置を表明後、その動きに対して都議会自民党は「『安ければいい』という考えの下に議論しているのではないか」と警戒感を強めていた。同党の高木啓幹事長も「(入札契約制度改革に当たっては)中小企業の保護・育成も重要な観点であり、もし間違った方向に進むのであれば、われわれも論陣を張っていく」との姿勢を示していた。
内部統制PTでは、築地市場解体工事や豊洲新市場主要3棟建設工事、海の森水上競技場、オリンピックアクアティクスセンター、有明アリーナの五輪3施設整備工事の応札者や落札者へのヒアリングも予定。今後は、ケーススタディーを踏まえ、制度と運用の見直しや改善策の提案を行っていく考えで、その動向が注目される。
■内部統制PTの課題認識
(1)予定価格の事前公表=国は事後公表で、事前公表の慎重運用を促している。
(2)1者入札=そもそも競争性に疑問。予定価格の事前公表と結び付くと落札率が高くなる傾向大。
(3)総合評価方式の運用=価格面が相当程度軽んじられているのではないか。
(4)予定価格の妥当性=入札不調などを恐れて過大に積算しているのではないか。
(5)最低制限価格制度=一律に設定すると、企業の努力や競争を抑制するのでは。
(6)特定調達(WTO協定)の運用=WTO案件を回避するきらいがあるのではないか。
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