2016/11/30

【妹島和世】街とのつながりを多面的に表現した「すみだ北斎美術館」 愛着ある施工に感謝


 街の景色や人々の営みを淡く輝く壁面が柔らかく映し込む。東京都墨田区に誕生、22日開館した「すみだ北斎美術館」は、淡い鏡面のアルミパネルに覆われた外壁がソリッドでありながら、輪郭線のない透明感をまとったボリュームとして立ち上がる。さまざまな角度に切り取られた現実の社会と北斎の描く世界観との境界をも時空を超えて緩やかに結ぶ装置とも言える。

 設計は建築家の妹島和世氏(妹島和世建築設計事務所)。墨田区が2009年に実施した公募型プロポーザルで176者もの応募者の中から選ばれた。東日本大震災や、その復興需要に伴う労務費、資機材価格高騰の影響もあって着工時期の延伸や一部プログラムの変更も余儀なくされたが、プロポーザルで提案したコンセプトは高いレベルで具現されている。

緑町公園から見る

 建物全体を小さな単位に分割するように設けられた立体的なスリットは、周囲の下町のスケール感との調和とともに、室内に安定した光環境を実現。さらに建物の内外部を視覚的につなぎ、4方向どこからのアクセスも可能とするなど、街とのつながりを多面的に表現する。

スリット内部

 「周囲のスケールと違和感のないように小さな集まりに分節した。展示室などの必要面積を確保し、光をコントロールしていく中で閉じたり開いたりしていった」とは妹島氏。「時間帯によって見え方や映り方も変わっていく」というアルミパネルの外壁は「北斎の多様性」を表出しつつ、「シンプルなベースになるよう工夫した」とも。その接合部の収まりには「あっさり見えてあっさりと造るのはすごく難しい。愛着を持って取り組んでもらわないとこうはできない」と、大林組・東武谷内田建設JVなど施工陣に感謝の言葉を寄せる。
 開館に先立ち、21日に内外の関係者を招いて開かれたレセプションでは、日本が世界に誇る北斎と妹島氏古今2人の才能の協働とも言える美術館への期待が口々に語られた。
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