2016/11/25

【記者座談会】“稼げる”スタジアム・アリーナへ改革なるか 五輪契機に新たなまちづくり 

A 東京五輪の競技会場見直し議論も大詰めのようだけど、金額の多寡にばかり目が向いているように感じる。
写真は五輪後も建設ラッシュが続くロンドン市内。大規模な再開発が活発化している

B 確かに「レガシー」という言葉はすっかり色あせた感がある。巨額の建設費は「負のレガシー」と見えるのかもしれないけれども、コスト削減が目的化してしまうとかえって五輪限定の施設となってしまいかねない。
C 要は“金食い虫”のコストセンターから、新たな収益を生む産業基盤としてのプロフィットセンターに発想や考え方を転換していくことだ。
D それが政府の掲げる「スタジアム・アリーナ改革」だよ。スポーツ庁がまとめた2017年度から21年度までの「第2期スポーツ基本計画」の素案では「スポーツの成長産業化」を盛り込んでいる。スポーツ市場を現在の5.5兆円から20年までに10兆円、25年には15兆円にする目標を設定して、核となるのがスタジアム・アリーナ改革を通じたまちづくりだ。
C 公共施設を「稼ぐ施設」とするには従来の公物管理に関する考え方を抜本的に見直す必要がある。民間のノウハウやアイデア、資金を活用しながら価値の最大化を実現するには、行政が横並びや前例主義から脱することができるかが問われるだろう。
B 理屈は分かるが前例のない取り組みにはリスクがつきものだ。まして最近の豊洲や五輪施設をめぐる一連のマスコミ報道、インターネット上での議論のあり様を見ていると、本質論議というより短絡的な犯人捜しが横行している。反論の余地も与えられず一方的に悪者としてつるし上げられ断罪される。正論であっても流れに沿うものでなければ、あっという間に“炎上”する。これでリスクを取れと言っても正直つらいものがある。
D 公共投資は将来に対する投資だからこそ現在価値だけでなく、あらゆる可能性を想定しながら一人ひとりが当事者意識を持って粘り強く議論を積み上げていく必要がある。そこは何とか踏ん張ってほしいところだ。
 
A ところでオリンピック・レガシーの成功モデルとされるロンドンに取材で行ったけど街の様子はどうだった。
E ロンドン五輪以降も建設ラッシュがまだ続いている。大規模な再開発が目白押しで、少し高台に立てば市内にいくつものクレーンが立ち並ぶ様を見ることができる。近・現代的な建築と伝統的な建築が並ぶ風景は新しい観光資源になるだろうね。もっとも、プロジェクトが多いだけに評価はさまざまだ。英国内でその年の最も醜い建築を選ぶ「カーバンクル・カップ」という有名な建築賞があるけど、12年以降は毎年ロンドン市内の建築が大賞に選ばれている。ことしの大賞は「いつでも自殺できる建築」だった。
A 英国らしいジョークかな。既存施設の活用は。
E 家賃の高いロンドン市内では古い家に手を加えながら使うのが一般的で、どの通りを歩いても日常的にそういった現場を見かける。歴史的な建築物の外観を残しつつ内部の性能を高める工事は日本でも増えてきているが、ロンドンは狭い地域にとにかく件数が多い。五輪に合わせて住宅や公園といった大規模な再開発を実施した東側のストラトフォード地区と比較し、西側の郊外は古い戸建て住宅が立ち並んでいる。いまの大規模開発は主に中心部だが、これからも開発の余地はまだまだあると言える。
A 複数の都市ランキングを見てもロンドンの都市力に対する評価は高い。東京もやはり五輪をいい契機として都市防災などの弱みを克服しつつ、本来持っている資源=強みを生かしたまちづくりが進むことを期待したいね。
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