日本6大古窯の1つである常滑(愛知県)に、LIXILの品質・技術統括部技術研究所「ものづくり工房」がある。焼き物の技術や釉薬(うわぐすり)・素地の研究に取り組む研究施設で、古いタイルや焼き物の製法を解明し、現在に蘇らせてきた。旧INAX発祥の地である常滑は、江戸時代から陶業の盛んな街。そこで培われたやきものの技術を伝承しながら、工場生産とはひと味違う、職人の手によるタイルづくりを続けている。写真は「女川温泉ゆぽっぽタイルアートプロジェクト」の「霊峰富士」(撮影:梶原敏英)
「ベテランが退職する時には、若者が入って技術を伝承するのが理想」と、同研究所の小関雅裕ものづくり工房グループリーダーは話す。メンバーはマネジャーを入れて総勢8人。人から人に技術を伝える少数精鋭のやきもの職人の集団だ。
ものづくり工房には「伝統技術に学び、技術と精神を伝承する」というミッションが与えられている。歴史的な建築物の補修や復原に携わり、当時のタイルを科学分析して製法を究明、再現してきた。現代の建築基準に合う建材として生まれ変わらせる必要があり、職人の高度な知見が求められる。
ものづくり工房の外観 |
過去にはイタリアの建築家ジオ・ポンティの「聖フランチェスコ教会」のタイルや、東京駅丸の内駅舎の赤煉瓦の復原にも取り組んだ。その過程では、失われた技術を再発見することもある。「それを今のLIXILのタイル事業にどう応用するかを考えるのもわれわれの使命」と小関氏は考える。建築家にタイルの特徴や良さを伝え、ひところより減ってきたビル建築のタイル外壁を復活させたいという思いもある。
ものづくり工房にはもう1つ「やきもの技術のイノベーションと新たな可能性に挑戦する」というミッションもある。芸術家の大竹伸朗氏と、実際に入浴できる美術施設「直島銭湯『Iハート湯』」のタイル制作を通じ、コラボレーションするなど、新しい表現技術を追求してきた。
ものづくり工房の作業風景 |
「クリエーターのイメージや要求レベルは、われわれの考えるレベルを超えており、理解するのに苦労する」(小関氏)。しかし、実現に向けて試行錯誤を繰り返し、新しい技術や方法に労力を惜しまず取り組むことで、新しい表現が可能になる。そこに喜びを感じるという。
そんな中、東日本大震災の復興支援活動として、建築家の坂茂氏から「女川温泉ゆぽっぽタイルアートプロジェクト」に参加の声掛けがあった。宮城県女川町は住宅の7割が流出し、人口の約1割が亡くなった地域。坂茂建築設計の調査により、町民の「銭湯がほしい」という要望が浮かび「ゆぽっぽ」という町営温泉を駅舎と合築することになった。建物内部のタイルに日本画家の千住博氏の絵を使うことになり、制作にものづくり工房が指名された。
14年4月にタイルアートプロジェクトがキックオフ。小関氏も参加し、千住氏がその場で「霊峰富士」「泉と鹿」「家族樹」の絵を描いてイメージづくりをした。
「家族樹」 |
タイル壁画は「フォトタイル」の技法で再現することになった。転写紙という専用のフィルムに絵を印刷してタイル表面に張り、高温で焼き付ける転写技術だ。霊峰富士ではトーンを掛け合わせてグラデーションを作ったが、青が徐々に薄くなるようにするのは難易度が高く、トーンの配合を変えながら試作を繰り返して完成させた。
全国から公募した花模様を地元の「港町セラミカ」メンバーと転写する |
家族樹では、女川のスペインタイル工房「みなとまちセラミカ」も転写に参加し、全国から公募した花模様780枚を2日で転写した。「プロジェクトに賛同し、集まったクリエーターの方々とご一緒する取り組みが、女川地域のコミュニティー再生や活性化の一助になる」(小関氏)と感じながらの作業だった。
現在は、隣接するINAXライブミュージアムで開催中の「つくるガウディ展」でオリジナルタイル制作の真っ最中だ。来館者は刻々とタイルが施工されていく様子を、現在進行形で見学できる。
既成概念にとらわれないものづくり工房の挑戦は続く。
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