名古屋近郊の高蔵寺ニュータウンの片隅に暮らす老夫婦は、菜園で70種の野菜と50種の果実を育てて生活している。生活費は2カ月に一度の年金32万円だ。収穫物は梅、栗、くるみ、さくらんぼ、ジャガイモ、スダチ、タケノコ、ベーコンなど。食材は料理して、一人暮らしの孫娘にも送る。母屋は建築家のアントニン・レーモンドの家に倣った30畳一間。高い天井から明るい日の光が差し込んでいる。
『平成ジレンマ』『ヤクザと憲法』などの話題作で知られる東海テレビドキュメンタリーの最新作は、「スローライフ」の先駆けともいえる建築家夫婦の物語だ。
90歳の夫は高蔵寺ニュータウンの計画に携わった建築家・津端修一氏。雑木林を風の通り道に残し、人と自然が共生する--しかし時代は、その提案を許さなかった。ニュータウンは山を削り谷を埋め、経済性重視の無機質な大規模団地として完成した。
87歳の妻、英子さんは収穫した食材で料理やおやつをつくり、機織りもする。「主人にはきちっとした物を着せて、きちっとした物を食べさせる。そうして旦那がよくなれば、巡り巡って自分もよくなる」。そう信じて65年間ともに暮らしてきた。
『長く生きるほど、人生はより美しくなる』とはフランク・ロイド・ライトの言葉だ。カメラは淡々と2人の日常を追うが、映画の後半、年齢を理由にほとんどの仕事を断ってきた修一さんはある仕事を引き受ける。
人生最後にどんな仕事をするべきか。この問いに向き合う修一さんとそれを支える英子さんの関係は、単なる「スローライフ」という言葉では収まらない輝きを放っている。
(2017年1月2日東京・ポレポレ東中野にてロードショー、ほか全国順次公開/91分)
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