「そこはもう、空気も、街並みの感性も全部イタリアなんですよ」。女優の奈美悦子さんは、大好きな川崎市の複合商業施設「ラ チッタデッラ」をそう話す。イタリア・トスカーナ州のヒルタウン、サン・ジミニャーノをモチーフに川崎駅東口につくられたエンターテインメントの「街」だ。
2002年にオープンし、シネマ・コンプレックス、ライブホール、ウェディング施設、ショップ・レストランなどで構成する。奈美さんは、実は住宅空間のデザインなどがとても好きなのだという。そんな奈美さんの心をとらえた街並みを聞くと、「街全体のデザインについて答えるのは難しいですが、世田谷の自宅から車で30-40分で本物のイタリアに来ちゃったみたいな、すごく素敵な空間です。居るだけで落ち着くので、時間があるとふらっと行くこともあります」と語る。
◆娯楽の街づくりで時代の先端走る
施設を運営する「チッタ エンタテイメント」は1922年、創業者の美須●(金偏に黄)さんが「人々の活力の源となる娯楽を提供する」ことを目的に東京・日暮里で、映画館を中心にした娯楽街づくりに取り組んだことに始まる。36年、拠点を川崎に移して、創業の志であるエンターテインメントの街づくりをさらに拡大、現在の「ラ チッタデッラ」に至っている。
奈美さんは、オープンして少し経ってから訪れ、イタリアに紛れ込んだような街並みにすっかり魅了され、以来良く出かけるようになった。
「時間があると行きたいなあと思うところが川崎のチッタデッラです。ふらっと一人で出かけることも多く、本当に大好きなところです。ストレスが解消できて、居るだけで落ち着けるんです。素敵な街並みを見ながら、何も考えずにぼんやりできる場所です」
「街」に入ると、石畳の坂道、イタリアの伝統色をエイジングした外壁、アンティーク家具が置かれた店先などが続く。入り口正面広場からの光景は絵画のようだ。
石畳を敷き詰めた街並み |
「自宅から車で30-40分で、イタリアに来ちゃったみたいな、全部イタリアです。ランチと夜の飲食など1日ゆっくりすることもあります。運営しているチッタ エンタテイメントの美須孝子会長とは30数年のお付き合いをさせていただいていて、連絡を入れて一緒に食事をすることもよくあります」
美須会長と初めて会ったのは、会長の母親で2代目社長の美須君江さんの紹介。
「神宮外苑前の陶芸教室に通っていたころ、きれいな方がいらっしゃるなと思っていまして、ある時教室から外を見ていたら、車のドアをバンと開けて、ショールをさっとかけて降りてきたのがその方で、美須君江さんでした。高いヒールを履いて、その立ち居振る舞いがものすごくかっこよくて! 60歳くらいだったと思います。日本のおばあちゃまにはなかなかいない素敵な方でした。その君江さんとお昼をご一緒するようになって、お嬢さんの孝子さんを紹介していただきました」
美須会長と出会ったころ |
好きな場所はいくつもあるが、入り口の噴水そばの有機ワインの立ち飲み店は良く行くと言う。
「有機ワインのお店は、身体にも良いので行けば立ち飲みしているという感じですね。お店は会長、社長に認められたところばかりなので、どこも素晴らしいです。映画館も素敵で、イスは疲れないし、良い香りもしてリラックスできます。シネマコンプレックスの原型をつくったり、オールスタンディングの先駆けとしての大型ライブホールがあったり、イベントで今のようなハロウィンの先べんを切ったり、娯楽では時代の先端を走ってきたのではないかと思います」
西野バレエ団所属の10代のころ、日劇や新宿コマ、地方の劇場で舟木一夫さん、小林旭さんなどの相手役で数多くの歌謡ショーに出演した。
「思い出の劇場が今はほとんどなくなってしまいましたが、若かったので日劇の奈落が暗くてとても怖かったこと、地方で舟木さんのショーが終わった後に舟木さんの熱烈なファンに髪の毛をつかまれて洋服をばりばりに引き裂かれたことなど、いろいろなエピソードがありました。舟木さんはショーの開催中毎日、ぬいぐるみを贈ってくれたんですよ」
◆住宅空間のデザインが好き
現在の1つ前の自宅は木造で、奈美さんが設計段階でいろいろとデザインの提案をしたという。
3歳のころ、奈良県広陵町の自宅近くで |
「家の空間のデザインを考えるのが大好きです。うちは歴代大型犬を飼っているので、犬中心の設計になるのですが、同時に陽当たりと風通しの良さが私にとっては最も重要な条件です。前の家は典型的な日本家屋でして、天井高が5.7mあったんです。それで、電球が1個切れたら自分で取り替えることができなくて、200円くらいの電球のために電機屋さんを呼んで、はしごをかけて取り替えるんです(笑)。昔からお家を見るのが好きで、いまも近くのモデルハウスを見て回ったりしています。中に入って、私だったらあそこにあの家具は置かないなとか勝手に思っています」
(なみ・えつこ)1950年、奈良県に生まれる。13歳で西野バレエ団に入団し、その後1967年にNHK『文五捕物絵図』で女優デビューを果たす。女優・タレント・コメンテーターとして数々のドラマや映画、バラエティ番組に出演し、歯に衣着せぬキャラクターでお茶の間の人気を集めている。
2004年には「掌蹠膿疱症性骨関節炎」(しょうせきのうほうしょうせいこつかんせつえん)という難病を患うも、食生活を見直し、雑穀中心の生活に切り替え、今ではすっかり元気に芸能活動を行っている。日本でも数少ない雑穀アドバイザーの資格や、食育インストラクター、薬膳マイスターの資格を有し、食の大切さを伝える講演活動も行っている。
また、その資格を生かし、雑穀米や雑穀甘酒、雑穀青汁等の商品プロデュースも行っている。『健康で美人』(雑穀米)、『甘酒で美人』『雑穀青汁』を「ゆずり葉くらぶ」 (問い合わせ:0120-580-359)で販売している。
◆建築概要 故ジョン・ジャーディ氏に映像提示し意見出し合った
チッタ エンタテイメント会長 美須孝子さんに聞く
ラ チッタデッラを運営するチッタエンタテイメント会長の美須孝子さんは、友人の紹介で米国建築家の故ジョン・ジャーディ氏に全体の基本設計を依頼し、意見を出し合ったと話す。
「ジョン・ジャーディにあなたのイメージしている街はどこなの? と聞かれ、仕事で20年近くかかわってきたイタリアの街並みを考えていましたので、『現地の映像を撮ってきます』と答えました。場所は、世界遺産にも登録されたトスカーナ地方の城塞都市サン・ジミニャーノです。その都市をモデルにしてコンセプトを議論しました」
その結果、「城塞」に見立てた丘の頂上に教会があり、そこから麓に向け螺旋状に緩やかに降りていく石畳の道の両側に、さまざまなショップ&レストランなどが立ち並ぶ、イメージ通りの街が完成した。
東日本大震災では幸いに施設はすべて無事だった。
周囲ではさまざまな娯楽の自粛が見受けられたが、「一昨年社長に就任した息子が先頭に立って、こういう時こそ映画で皆を元気にしようと、映画館は休まず営業を続けました。戦時中に創業者にあたる曽祖父が憲兵に隠れ、娯楽に飢えた庶民のために映画の会を開いたことを想い出し、息子が熱い血を継いでいるのを感じました」
親しくしている奈美悦子さんのことは「頭が良くて話が面白いし飲んでいても飽きないんです」と語る。
今後の展開はこう話す。
「私が事業を継承したとき、母は私のすることに一切口出しをしませんでした。息子のアレッサンドロにも極力そうするよう心掛けています。今では私の方が感心してしまうほど魅力的なプランを提案してくれます」
◆建築ファイル
▽名称=ラ チッタデッラ
▽運営=チッタ エンタテイメント
▽所在地=神奈川県川崎市川崎区小川町4-1
▽施設概要=チネチッタ(首都圏最大規模のシネマコンプレックス)、クラブチッタ(最新の音響設備とマルチメディア対応機能を備えた大型ライブホール)、カペラ サンタンジェロ(天使の教会。挙式もできる教会)、アレーナ チッタ(フットサル場。全天候型のフットサルコート2面)、ショップ&レストラン(話題のレストラン&カフェ、個性的なショップを集積)、ラ チッタデッラ シンフォニー(水と音と光を融合した幻想的なショー噴水)、チネピット(約320台収容の駐車場)
▽基本設計=ジョン・ジャーディ
▽建築設計監理=石本建築事務所
▽施工=大林組
▽全体敷地面積=1万6131㎡
▽建築面積=1万1332㎡
▽延床面積=3万9732㎡
▽オープン=2002年
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