2016/09/04

【けんちくのチカラ】絶妙な“ほど良さ”持つ空間 パーソナリティー・ナレーター 坂上みきさんとパルコ劇場


 パーソナリティー・ナレーターの坂上みきさんは、「人生でもっとも緊張した」と言うパルコ劇場(東京都渋谷区)の人気朗読劇『ラヴ・レターズ』(訳・演出=青井陽治)出演で、舞台から見た劇場空間が思っていたより「コンパクトで、自分の中で把握できる大きさなんだ」と感じたという。客席からは広がりのある大きさで、演じる側からは手が届く空間--。ほかにもさまざまな点で「絶妙なほど良さ」を持つ劇場だと話す。「それは、アベレージを取ったというのではなく、追求した美しい信念のようなものを感じます。加えて演目のプロデュース力が素晴らしく、パルコで見るものは『外れ』がなかったですね」
◆演じる側からはコンパクトな劇場 観客との一体感を表現

坂上さんが「追求した美しい信念のよなものを感じた」という劇場内観(撮影:西村淳)

 『ラヴ・レターズ』は1989年、米国・ニューヨークで初演され、全世界でブームを巻き起こした朗読劇で、幼なじみの男女が再会する物語。大がかりな仕掛けもないシンプルな舞台で、男女がペアで台本を読む。パルコ劇場では90年8月からことし8月7日の一時休館(2019年竣工予定で建て替えが始まる)まで、467回上演された朗読劇の金字塔ともいえる演目だ。
 坂上さんは07年7月29日、俳優の梅垣義明さん(WAHAHA本舗)とペアで出演した。

『ラヴ・レターズ』の相手役は俳優の梅垣義明さん(左) 写真提供:パルコ
「客席から見るのと舞台に上がるのとは全然違うものだと実感しました。本番前にそでに立っている時は、このまま倒れて救急車がさらっていってくれないかっていうくらい、心臓がばくばくしてまして(笑)、人生で一番緊張した瞬間でした」
 それでも持ち前の度胸と司会などの経験で舞台に出てしまえば何とかなるもの。見事に演じきった。
 「観客として舞台を見ていたときはそれなりの大きさを感じていたのですが、舞台から見た劇場はコンパクトで、自分の中で把握できる大きさなんだというのが分かりました。これが、観客との一体感という表現に結びつくのかもしれませんね」
 一時休館前の7月、改めて芝居を見に行った。
 「客席の前後左右の間隔、内部の装飾などいろいろなことがちょうど良いんですね。ゴージャスとシンプルの間の絶妙なほど良さといいますか。それは、アベレージを取ったというのではなく、追求したらこうなったという『美しい信念』のようなものを感じます。素人の一観客としての見方ですが……。いつ行ってもそんな空気を持つ心地良い場所です。建て替えられる新しい劇場にはこの空気を継承してもらいたいです」
 1990年、大阪から東京に仕事の足場を移し、TOKYO FMのラジオ番組のパーソナリティーとして活躍した。
 「いろいろな情報を毎日出さなければならなかったのと、エンターテインメントが大好きなので、1週間にこれだけ見るなどと決めて、映画、お芝居、コンサートなどによく出かけました。パルコ劇場はその一つです。92年だと思いますが、フランスのフィリップ・ジャンティ・カンパニーの幻想的なパフォーマンス『漂流』を見たのが最初で、とても感動したことを覚えています。その後も、上質で時代の先端を走る国内外の作品を上演し、パルコで見るものは『外れ』がなく、信頼できるという印象が強かったですね。プロデュース力が素晴らしかったのだと思います」
 そんなパルコ劇場の看板企画『ラヴ・レターズ』に出演できたことを「歴史に名前を刻んでいただいたことは名誉で、とてもうれしいことです」と述べる。

◆「海辺の家」への憧れを実現
 ラジオ番組の情報インプットとともに旅行も好きなので、国内外の建物に触れる機会も多い。
 「行く先々でたとえば美術の展覧会に足を運べば、作品とともに建物の空間の善し悪しのようなものも自ずと気になってきます。地方にも青森県立美術館(設計は青木淳さん)や金沢21世紀美術館(同SANAA)など、著名な建築家の設計したところがありますが、やはりそういう空間はほかとは違っておもしろいし興味があります」
 大阪府八尾市の出身で小さいころは、近くの野山を駆けめぐって遊んだという。
 「奈良県との県境にちょっとした山があってその近くで育ったんです。そのせいか、海への憧れがずっとありまして、仕事が落ち着いたら海辺に家を建てたいという夢がありました。ある時ポリープができて手術をしたのですが、その病院が薄暗くてとても辛く、勝手に自宅に戻ったんです。そしたら麻酔が切れて、死ぬかと思うほど痛んで、その瞬間、死ぬ前に海の見えるところに家を建てるんだったと改めて思い出したんです。幸い大事に至らず、回復しまして、その週末には逗子の駅に来ていました」

憧れていた海の見える自宅
そして現在、夢が叶って180度海が見渡せる自宅を持つことができた。設計は、知り合いの大好きな住宅を設計した郡裕美さんにお願いした。
 タレントの黒柳徹子さんに憧れてアナウンサーの世界に入ったという。
 「『徹子の部屋』が好きで、インタビューや情報を自分のフィルターを通すことで、楽しく感動的に伝えられたら良いなと思ったんです。黒柳さんにはとてもなれませんが、その気持ちで今も仕事を続けています。ライブハウスで、ゲストを呼んでのトークショーをライフスタイルに出来たら最高です」

 (さかじょう・みき)1959年、大阪府八尾市生まれ。テレビ新潟(現・TeNY)のアナウンサー、毎日放送『MBSナウ』のニュースキャスターを経て、TOKYO FMの人気パーソナリティーとして、18年間活躍。その間、毎日ほぼ2-3組のゲストを招き、延べ1万人のインタビュー経験を持つ。現在は、日本テレビ『PON!』、ラジオ日本『坂上みきのエンタメgo!go!』にレギュラー出演中。
 ナレーター、イベント司会、ラジオパーソナリティーを務めるかたわら、映画コラムを『週刊新潮』に連載するなど、執筆にも力を入れ、幅広く活躍中。
 2006年、12歳年下のニュージーランド人と結婚。12年、男児出産。

■劇場概要 劇場自らのプロデュースで先端走る

渋谷パルコ外観。パルコパートIの9階に劇場が入っていた(撮影:西村淳)

 8月7日に一時閉館したパルコ劇場は1973年、渋谷パルコパート1の開業と同時に「西武劇場」の名称で9階にオープンした。渋谷パルコのイメージ戦略として、観客の知的好奇心を満たすためにアバンギャルドな芸術作品を積極的に上演し、斬新な広告宣伝で、時代の最先端を走る劇場として瞬く間に知名度を上げた。
 こけら落としは、現代音楽の第一人者・武満徹と高橋悠治の企画・構成・監修による『MUSIC TODAY 今日の音楽』で、いまだ伝説として語られている。近年は演劇の公演が大半だったが、開場当時はコンサート、ファッションショーなど多様なジャンルの作品を上演した。
 パルコ劇場の最大の特徴は、単にスペースを貸し出すのではなく、文化事業として劇場が自らプロデュースを行っている点にある。エンタテインメント事業部の劇場制作チームがプロデュースし、時代の流れを読みながら公演制作を行ってきた。さらに国内外との文化的コミュニケーション、新しい才能の発掘・育成、劇団やメディアとの連携などを重視し、多角的な作品づくりを進めてきた。
 この結果、草創期だけでも安部公房スタジオの旗揚げ公演、井上ひさし作『天保十二年のシェイクスピア』、寺山修司作・演出『中国の不思議な役人』、唐十郎作×蜷川幸雄演出『下谷万年町物語』など数々の名作が誕生している。音楽×芝居の新しいエンターテインメント『SHOW GIRL』もこの時期の傑作。さらに美輪明宏、つかこうへいとの出会いはパルコ劇場の方向性に大きな影響を与えた。
 近年は、宮本亜門、三谷幸喜、長塚圭史らの演出作品や「志の輔らくご in PARCO」が人気を集めていた。
 劇場空間について、劇場スタッフは「客席がワンスロープで、舞台から客席最後列までの距離が近く、観客からも演ずる側からも一体感が感じられると好評をいただいていました」と話す。美術家の故脇田愛二郎による赤と青がベースの印象的な緞帳、喫茶を併設したロビーなども、観客にとって愛着の深いものとして定着していた。

■建築ファイル
▽名称=パルコ劇場(1973年の開業当初の名称は西武劇場、76年パルコ西武劇場に改名。85年に現在のパルコ劇場に)
▽所在地=東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷パルコパート1、9F
▽用途=劇場
▽客席数=458席
▽既存の渋谷パルコの設計・施工=パート1大成建設、パート3竹中工務店
▽ことし8月7日で一時閉館。渋谷パルコの建て替え計画が同月に認可され、17年5月に着工、19年10月の竣工を予定している。施設規模は地下3階地上18階建て延べ約6万3830㎡。店舗、劇場、事務所、駐車場などが入る
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