長野県の善光寺が、重要文化財「経蔵」の耐震補強工事の耐震ブレースとして、小松精練(石川県能美市)の熱可塑性炭素繊維「カボコーマ ストランド・ロッド」を採用した。本来は鉄筋を使うが、カボコーマは木材と近い性質の炭素繊維製で結露せず、軽量でより高強度なので木造建築への負担が少ないことから世界で初めて採用した。全国の木造文化財の画期的な耐震補強材として有望視される。
善光寺の経蔵(photo:663highland) |
善光寺の経蔵は、当時の技術の粋を集め、1759年に建立された。蔵の中心部には3.8tの回転式の「輪蔵」があり、大量の経文が納められている。老朽化が進んだため2008年から公開中止となり、14年から保存修理事業に着手した。現在は耐震補強と屋根面の補修を進めており、8月末までの竣工を目指す。
耐震補強では、建物の中心部にある「心柱」を軸に、屋根裏の梁や柱の間で枠組み構造を作り、耐震ブレースやダンパーで建物にかかる揺れの力を制御する。大規模な地震でも建物の変形が抑えられ、ほぼ無傷で耐久できるという。
底に見える黒い線が炭素繊維の耐震ブレース |
カボコーマは耐震ブレースに使われた。熱可塑性樹脂と炭素繊維を複合した頑丈な素材をロープのようにより合わせ、鉄の2倍の柔らかさを保ちながら7倍の強度を出した。丸めて持ち運べ、耐久年数は100年以上ある。複雑な木材の構造の間を通して施工できたため、工期も短縮した。
「鉄板で固めれば耐震補強としては最も安全だが、258年前の大工の墨跡や竹の釘などを後世に残すために別の方法を選択した」と善光寺の若麻績宗亮営繕部長は話す。構造設計を担当した江尻憲泰長岡造形大学特任教授は「中の部材を傷めず、必要最小限で安全性が確保できる。今後もデリケートな文化財の補修などで活用を進めたい」と話した。
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