少子・高齢化社会の到来が確実視される中、将来的な担い手の確保・育成が建設産業界全体の大きな課題になっている。i-Construction(アイ・コンストラクション)の導入を始めとする生産性革命が本格始動し、産業構造が大きな転換点を迎えつつある中、建設キャリアアップシステムの本格運用や、優良な地元建設業の存続に向けた重層下請構造の改善など、専門工事業を取り巻く環境にも変化の兆しが見え始めている。写真は職人育成塾の第1期生22人
中長期的に減少していく建設投資、建設市場の新設から維持・補修への転換、少子高齢化と人口減少に伴う労働力人口の減少といった環境変化の中で、専門工事業界も変わってきた。これまでの景気依存、元請け依存、行政依存から脱却し、自ら動き出した。大きな要因は人手不足。とりわけ若年者の入職者の少なさにあるだろう。専門工事業にとって最大の課題は人材の確保だ。また、建設投資が減少する中で、企業を継続させるためにどのような対策を講じていくかも大きなテーマであり、生産性の向上や多能工化に向けた取り組みを始める企業も出てきた。「いま始めなければ。東京五輪後に建設投資が減少し始めてからでは間に合わない」という危機意識が専門工事業者に変革を促す。
人材を確保するために、全国的に広がってきたのが、工業高校などへの出前講座だ。取り組みが定着してきたところは、わずかでも入職が増えている。さらに、インターンシップも有効な手立てだ。「7、8年前から毎年受け入れているが、これまで1人も来なかった。それが2人来てくれることになった」という企業もある。学校側は受入先を探しているが、協力してくれる企業は少ないという。忙しいからと断っているようでは、みすみす人材確保のチャンスを逃してしまう。職業体験学習への積極的な協力が人材獲得につながる。出前講座、インターンシップなど、若者に仕事を知ってもらう努力をしなければならない。
◆職種・同業の枠を越え連携
また、労働力確保には新規入職者を増やすことは大事だが、入職した人たちに定着してもらう、ということも重要である。新規高卒入職者の半数近くが3年目までに離職しているのが現実であり、そのためには就労環境、労働条件の改善が急務だ。それは、若年労働者確保のためにも必要であり、他産業並みの賃金や休日などの確保ができなければ、人材獲得競争に負けてしまう。解決すべき課題は多く、しかも1社で取り組めることと、休日のように建設業界全体で取り組まなければならない問題もある。人材の確保のためには、こうした課題を1つずつクリアしていくしかない。
その1つが、国土交通省が進めてきた社会保険未加入対策である。その期限を目前に控え、専門工事業者の社会保険等への加入は進んできた。ただ、それは企業単位の加入であり、建設労働者単位で見ると、施策を講じる前に比べれば確実に加入率は上がっているものの、目標までにはまだまだ遠いのではなかろうか。多重債務者、住所不定の人たちも建設現場でものづくりを支えているのは事実であり、そうした人たちをどうしていくのか、一人親方が増えるのではないか、という課題も見え隠れする。それでも専門工事業者の加入率は上がり、業界が大きく変わってきたことは間違いない。
ただ、東京五輪後の工事量減少を見通すと、全員を加入させることは難しいという意見も大都市圏では根強い。社会保険に加入させることは、社員化することを意味する。社員にすれば、仕事のない時でも賃金を払わなければならないし、加えて解雇も難しくなる。全社員を社会保険に加入させたが、仕事がなくて倒産した2次下請けの企業もすでに出ており、工事量の確保と平準化が必要だ。
人材の確保と定着に向けた企業単位での取り組みとして、野球やサッカーなどのスポーツチームをつくる企業が増えている。野球部があるから入社するという若者や、スポーツをすることで仲間や先輩・後輩とのコミュニケーションを取りやすくなり、悩みを相談できるようになって離職を思いとどまったという若者もいる。効果は大きそうだ。社会保険の問題を端緒として福利厚生についてきちんと考えなければならない。
◆多能工化も生き残り策
人材の育成という面でも大きく変わってきた。業種、同業者の枠を越えた取り組みが始まった。2016年4月群馬県に開校した利根沼田テクノアカデミーでは、建築板金と瓦の基礎訓練を実施。同年10月に開校した職人育成塾は、香川県内の内装仕上げ、左官、タイル、防水、設備工事などの企業10社が連携して実現にこぎつけた。
一方、建設投資の減少が見通せることから、多能工化に取り組む企業も増え始めた。とりわけ、新築工事は確実に減少していくことは明白であり、とび工にボード工の技能を教えるとび・土工工事業者もいる。また、ある鉄筋工事業者は鉄筋工に耐火被覆工事の施工訓練を始めた。工業化により鉄筋工事量が減少していく中で、耐火被覆工事を施工することで仕事を確保していく考えだ。前工程、後工程という業際に拡大するのではなく、仕事の時期のずれる職種、能力があれば比較的短期間に技能を身につけられる職種へと多能化を図る企業は増えていくだろう。
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