『ダムの日』はこれまで計3話が連載され、6月15日に発売される同誌4号で4話目が掲載される。これまでの連載が好評だったため、4号では過去3話分も一挙掲載する予定だ。
土木の世界とは無縁だった羽賀氏は、あるゼネコンの全面的な協力を受け、実際にダムの建設現場に足を運んで取材した。「小説などと違って、マンガはすべてを絵で表現しなければならず、想像だけでは描けない。きっちり取材してリアリティーを徹底的に追求する」というスタンスを貫く。現場の風景はもちろん、そこで働く人々の習性に至るまでを克明に描く。
「現場では宿舎暮らしで、10年も家族と暮らせないのが当たり前の世界」を目の当たりにした羽賀氏は、「家族のあり方」にも思いをめぐらせる。連載の1話目では、妻と2人の子どもを残してダム現場に旅立つ主人公の心の動きにスポットを当てた。家族と離れる寂しさ、ダム現場という“新しい戦い”に挑む意気込み。こうした細やかな心理描写は、羽賀作品の持ち味の1つだ。
ダム現場の取材ではこのほか、「現場内のコミュニティーのあり方が、通常の職場とは違う」とも感じた。「20代半ばで年齢の近い同僚同士が働くといった光景が見られなかった。例えば、発破作業の職人は60歳と19歳のコンビだったが、大きな年齢差がありながらも厳しくテキパキと仕事をこなしていた」。現場で働く人々の姿は羽賀氏の目にどう映ったのか。「安全を最優先し、自らを律して仕事に向き合う姿が印象的だった。それが一つひとつの所作に表れている」。
「なぜ土木の世界を志したのか」。4話目では、主人公のバックボーンに切り込んでいく。ダム現場が舞台だが、描く対象はそこで働く人々やその内面だ。作品には、「(業種にかかわらず)自分の仕事をがんばってもらいたい」という読者に対するメッセージが込められている。このマンガはもちろん建設業界のPRが主目的ではない。しかし図らずも建設業界、特に土木関係者は勇気付けられてしまうだろう。
実は羽賀氏にも、その世界を志した理由がある。「子どものころからマンガ家になるのが夢だった。『何か物を作る人間になりたい』という思いもあった」。ただ、その後は大学で教員免許を取得し、教師の道に進もうとしていた。実際、卒業後に教鞭を執る高校も決まった。
しかし、応募していたマンガ作品が入選。それをきっかけとして自分の夢に挑むことにした。「自らが自分の夢に挑戦もせず、生徒たちに『夢を持て』と語ることなどできない」。
(はが・しょういち)氏
茨城県出身のマンガ家。2010年、大学ノートに描いた『インチキ君』で第27回MANGA OPEN奨励賞受賞。11年に『ケシゴムライフ』を週刊モーニングで短期集中連載。マンガビジネス誌「PRESIDENT NEXT」(プレジデント社)にて『ダムの日』を、カフェマメヒコ発行のM-Hicoでは、トークイベントと連動した作品を連載中。
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