2015/06/24

【インタビュー】地方から発信する「持続可能なデザイン」 若手科学者賞受賞の渋谷達郎氏に聞く

山形市に拠点を置く若手建築家の渋谷達郎氏(アーキテクチュアランドスケープ一級建築士事務所代表)が40歳以下の研究者に贈られる2015年度科学技術分野文部科学大臣表彰の若手科学者賞を受賞した。「建築設計の実践に基づく持続可能な建築デザインに関する研究」が認められた。14年9月に5年間務めた豊橋技術科学工科大を辞し、故郷で本格的な設計活動を始めた。「ホームタウンで仕事をすることに意義を感じる。地域に長く愛される建築をつくりたい」と語る渋谷氏にこれまでの取り組みと今後の活動方針を聞いた。

 東北芸工大(山形市)を卒業後、仙田満氏が主宰する環境デザイン研究所に入所し、コンペやランドスケープの実務などを担当した。「学生のころは、建築は敷地に縛られるものだと考えていたが、まちを変えられる力を再確認した。キャリアの最初にとても良い経験が積めた」と振り返る。
 その後、隈研吾研究室の1期生として慶應大大学院修士課程に進んだが、旅行で訪れた欧州の土木施設やデザインに感銘を受け、パシフィックコンサルタンツに入社。リボンシティコミュニティ(埼玉県川口市)は、約12haの開発事業のコンペから設計、監理まで一貫して携わった。
 再び隈研吾都市設計事務所に入所し、慶応大研究室の助手として、国内外のさまざまなプロジェクトにかかわり、09年4月に独立。同年9月から豊橋技科工大助手に就いた。
 大学では、学生とともに建築サークルをつくり、古民家の改修や空き店舗の活用など、まちの活性化にかかわる取り組みを展開。「建物は完成してからが本当の勝負であり、そのプロセスを含む取り組みが重要だと学んだ」という。
 今回受賞した論文では、こうした持続可能な建築デザインを実現するための方策として、人の知覚や感性、質的評価など人の側からアプローチし、周辺環境と建築との応答関係を分析。
 さらに経年変化で魅力が増えるようなエイジング建築、ワークショップ、セルフビルドなど、参加型の建築手法に着目し、SNS(ソーシャル・ネットワークキング・サービス)を介した情報共有や合意形成のプロセスをまとめた。「ただ会合に参加したり、セルフビルドで満足するのではなく、そのクオリティーをコントロールしていくのが建築家の役割だ。美しいまちなみをつくり、参加性をどのように構築するかがこれからの建築家に問われていく」と力を込める。
 独立後の処女作である『白鷹の家』(山形県白鷹町)は、日本建築学会東北支部の東北建築賞作品賞を受賞した。これを見たクライアントに依頼された鳥海山の麓・遊佐町にある『家カフェBio』はJIA東北住宅大賞の奨励賞を射止めた。「年収が全国平均を下回る山形では、一軒の家を建てるのも大変なこと。建築家に頼むとコストが掛かるという印象を持つ市民も多く、世間との隔たりを埋めていきたい」と意欲を示す。
 また、出身地・長井市の「地域おこし協力隊」に参加し、山形鉄道フラワー長井線長井駅のリニューアルにも意を注ぐ。「“東北の駅百選”にも選ばれている歴史的な木造駅舎でまちの顔。地域を盛り上げつつ、勉強会や利用者へのアンケートなどを進めたい」と語る。その一環として“あやめ祭り”に合わせて開かれていたプロレス興業を進化させて復活させようと日本初のプロレス列車を7月4日に開催する。
 今後については「さまざまな意見を言い合い、考えを共有しながら設計できる環境をつくるためにも早くパートナーとなる所員を増やしたい」とした上で、「住宅だけでなく、保育所などの公共建築にも携わりたい。建築で地域を変えていくという学生時代にできないと思ったことに、もう一度挑戦したい」と、地方から建築の質を高めていく活動を展開する考えだ。
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