ことし3月の北陸新幹線開業に合わせ、JR富山駅から路面電車の接続も完了した富山市。新設された接続区間はわずか160mだが、ここには日本初の新素材が採用された。「強みの非導電性が認められた」と、ガラス繊維系ロッド材『ComBAR(コムバー)』を指差すのはドイツ建材メーカー、ショック社の日本法人で技術営業を担う坪沼和充氏。路面電車の軌道部分に車両切替装置周辺をカバーする補強材として使われることが決まった。ドイツを中心に欧米では用途を問わず土木や建築に幅広く採用されている素材だけに、日本国内でも利用価値はありそうだ。
軌道下に設置される車両切替装置などの機器類は周囲を鉄筋で補強する対策がとられることが多い。今回はマスディテクターと言われるセンサー式の最新装置が採用されたことから、その周囲に鉄筋などがある場合、検知機能が低下する可能性があり、導電性のない素材を補強材として採用する必要があった。
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部材径は8-32ミリ |
コムバーは、ガラス繊維をポリエステル樹脂によって棒状に加工したもので、引張強度は鉄筋の2倍以上でありながら、熱伝導率は鉄の120分の1と小さく、しかも導電性もない。坪沼氏は「完全な非磁性材であり、さびず、劣化もしにくい素材」と強調する。価格は1m当たり900円とやや高いが、素材のもつ優位性から海外では着実に販売数量が伸びている。
総出荷量は2004年の販売以来、3000tを超える。鉄に換算した場合は約1万tに匹敵する。市場規模は鉄に比べれば圧倒的に少ないが、特殊なエリアの採用率が高く、創造的な製品でもある。海洋構造物や橋梁では塩害対策用として、精密機器の工場や研究所などでは非導電性や非磁性が採用の決め手になっている。
隠れた特性として、金鋸でも切断できてしまうほどの加工性がある。掘削機でそのまま掘り進められるため、シールドトンネルのシャフト壁にも採用されている。ただ、鉄筋のように現場での加工ができず、曲げ加工が必要な場合は一品生産品として工場対応となるが、逆にどんな形状にも対応できるという。
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車両切替装置の周辺を補強した |
新幹線開通に合わせ、JR富山駅からの利便性を高めるため、新設された南北接続線は長さ160m。新富町駅と電鉄富山駅・エスタ前までの区間から枝分かれする形で富山駅前まで乗り入れる。ここでの車両分岐を操作する切替装置は3つ。それぞれが地下部に埋め込まれた。装置を取り囲むようにコムバーが現場で組まれたほか、プレキャスト部材としても提供された。
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富山市の路面電車南北接続線に初採用 |
使用したのは数量にして300㎏。日本法人ショックジャパンの田中誠氏は「鉄筋は鉄線を使って組むが、コムバーでは非導電性を確保するため、専用のクリップを用意している。ただ、市販されているプラスチック製の結束バンドでも問題はなく、この現場でも使った」と明かす。
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コンクリート打設 |
同社は初採用をきっかけに、日本での販売強化に乗り出す。部材直径は8-32mmの6種類を取りそろえた。海外では建築構造材として採用されているケースはあるが、ガラス繊維を使っているため、日本の現行制度上では構造部材としての利用が難しい。コンクリートかぶりが薄くても十分な強度を発揮できる利点を生かし、建築分野ではルーバーの芯材や階段のステップ部分などに利用価値があると考えている。
重点ターゲットに置くのは土木分野だ。耐腐食性という利点を生かした沿岸部での対応だけではない。坪沼氏は「導電性のないコムバーの特性を生かせる場として、リニア中央新幹線への売り込みにもチャレンジしていく。ある程度の数量を確保できれば、提供価格を大幅に抑えることができる」と先を見据えている。
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