2015/06/21

【素材NOW】M字クリップで“コンクリート躯体と緊結” 不二窯業が外壁タイルの検査省力化を実現

外壁タイルを採用した建築物に竣工から10年後の全面打診検査が義務化され、タイルメーカーには検査の省力化を求める設計者や施工者からの相談が絶えない。「目視点検のお墨付きを得た」と語るのは不二窯業の清水真人常務。JR岡山駅前で施工中のオフィスビルでは外壁約2000㎡にタイル先付けプレキャストコンクリート(PCa)工法の採用が決まったが、共同開発の“M字クリップ”によって、特定行政庁からは全面打診の点検が免除された。

 外壁タイルの剥離事故を背景に、建築物の定期報告制度が見直されたのは2008年4月。PCaに打ち込まれたタイルは竣工から10年後に全面打診検査を行い、特定行政庁への報告義務があるが、タイルが金属金物によってコンクリート躯体と緊結された場合、特定行政庁の判断によっては目視点検による報告義務に緩和される。
 そもそもタイルは裏面のくぼみに、コンクリートが流し込まれることで密着している。これでも十分な強度は得られるが、同社は裏面に切込みをつけた蟻足(ありあし)を設け、そこにM字型の金属金物(クリップ)を取り付けてコンクリートとの密着性を高める「タイルクリップ工法」を共同開発した。コンクリート二次製品メーカーのサムシング・ファイン(大阪市)、金物メーカーのデイコム(同)の2社と協力し、ことし4月に特許も取得した。

敷設したタイルの上に鉄筋を組み、コンクリートを打設
クリップの高さは約3cm。大阪営業所所長の宮崎敏郎取締役は「実は、この高さに意味がある」と強調する。タイル先付けPCa版の製作には敷設したタイルの上に鉄筋を組み、コンクリートを打設する。通常は一定のかぶりを確保するために専用スペーサーを入れるが、打設時のバイブレーター作業によって外れてしまう恐れもある。タイルにはめ込まれたクリップは、コンクリートのかぶりを確実に確保する役割も担う。
 そもそも剥離の原因には、かぶりが十分でないために、鉄筋のさびから膨張が始まるケースが少なくない。同社は外壁タイルの10年点検がスタートし、自社製品の現状を精力的に把握する中で「かぶりの確保が剥離対策に欠かせない」(宮崎取締役)と判断している。
 同社の試験によると、M字のクリップを取り付けたタイルは1平方cm当たり600㎏の引張力にも耐えられる。クリップ価格は1個70円となり、1㎡のタイルブロックでは65枚の二丁掛(幅227mm、高さ60mm)タイルを配置するため、4550円のコスト増にとどまる。全面打診は検査足場の設置など建築主のコスト負担が大きいだけに、目視点検を可能にする工法のインパクトは大きい。

施工中の岡山駅前のオフィスビルの外壁に採用
施工が進む岡山駅前のオフィスビルでは、近くPCa版の製作に着手する。工法の初適用となった京都の市民ホールはPCa版の張り込みを完了し、8月にも竣工を迎える予定だ。いずれも設計者から剥離防止対策を相談され、採用に結び付いた。全面打診点検という逆風が吹く中で、清水常務は「外装タイルの需要には大きな影響を及ぼしてはない。むしろ他の工種と同様にタイル職人が不足している点が業界にとっては深刻な悩み」と強調する。
 現場の省力化ニーズを背景に、PCa化の要求は従前にも増して高まり、タイル先付きPCa版については施工性の面からも需要拡大が期待される。目視点検を可能にするタイルクリップ工法は「外装タイルの救世主」になれるか--。宮崎取締役は「まずは設計者、施工者に工法の存在を知ってもらいたい」と呼び掛ける。
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