同構造はシドニー五輪、アテネ五輪などのオリンピック競技場でも採用されてきたが、新国立競技場は「クイーンエリザベス3号を超える高さと2LDKサイズの断面」(槇氏)という巨大さと狭隘な周辺敷地が施工難度を上げ、これがコスト高の原因と指摘した。建築家の大野秀敏氏も「前例のない巨大な可動式の屋根ではなく、構造形式として多用されている安定した構造で再検討すべき」とし、キール・アーチを設置しないことで開閉式屋根や芝生育成の装置、閉鎖開口部などの費用が不要になるという。
10月の着工に向け設計が続く状況での再検討は発注者・設計者・施工者に大きな負担を強いるが、大野氏は「建設費は既に従来のメーンスタジアムの2倍から3倍のコストになろうとしている。不確定な前に進むことで発生する損失と再検討の追加費用を差し引きしても大きな利益が得られる」と強調し、「再考の価値がある」と語った。
その一方で槇氏は「単にコストの問題だけではない」と指摘する。「代案なく最後まで突撃してしまうのは太平洋戦争の参謀本部と同じだ。うまくいかなかった時のためのオプションを持たなければならない」とし、現行案で“イケイケドンドン”と進む状況の危険性を指摘する。プロジェクトへの疑問や意見がある中では「お金のかからない安全な、みんなの喜ぶものをつくった方が良いではないか」とし、「発注者・技術者の社会的責任とは当選案をどう実現するかだけではない。市民の要求に応え、市民が安心できるものをつくることだ」と語った。
デザインを再検討する際に大きな課題となるのは着工までの時間的な制約だが、槇氏は今すぐに全力で代案をつくれば間に合わせることができると見通す。「こうした問題を現設計者は当然知っているはずで、その答えを即座に出すには最も適任だ」とし、「(キール・アーチ構造は)ひとつの案に過ぎない。オプションを作れるとすればこれがラストチャンスだ」と力を込めた。
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