2017/02/12

【建築学会】“場所の専門家”は縮小時代の都市にどう向き合うか 地球環境委員会シンポ「21世紀の都市の要件」


 縮小時代の都市像はどうあるべきか--。日本建築学会の地球環境委員会(中村勉委員長)が3日に開いたシンポジウム「21世紀の都市の要件」では、未来の都市と建築のあり方に明確なビジョンを持ち、積極的に発言している6人の建築家・研究者が集い、密度の濃い議論を展開した=写真。

 議論の軸となったのが、建築家で東大名誉教授の大野秀敏氏が2000年代初めから提案してきた「ファイバーシティ」の理論と実践だ。その集大成として、昨夏に上梓した著書の要点を自ら解説。「建築家は“場所”づくりをどうするかが常に中心的課題になっているが、実際には場所は“流れ”によって成立している」とし、特に現代の流れである情報・交通・エネルギーの技術革新に場所の専門家が追いつけない状況とともに、「グローバリゼーションの中で大きな流れがますます大きくなり、多国籍企業や大都市に富や人を確実に増やしていく。それが社会的な格差を広げ、人々の意識を旅行者に変え、場所が商品化している」と指摘した。
 その上で、これまでの発展・成長の時代から、人口減少と高齢社会という縮小の時代に都市が直面する中で、建築家に対して「これまで等閑視してきた流れの分野に切り込み、インフラのデザインに果敢に飛び込もう」と呼び掛けた。
 さらに「20世紀の建築家の職能モデルは機械設計者だったが、縮小時代のモデルは庭師であるべき」としたほか、「いまあるものをすべての創造の前提に据える。まず、目の前にあるものを受け入れることから始める」ことの意義を強調。「あらゆる場所に大きな流れが押し寄せているからこそ、地域の小さな流れに肩入れする必要がある」「新しい都市をつくることを前提とするのではなく、既にわれわれは既成市街地を持っていて、そこから人口が減っていく。そのストラクチャーの上に何を加えたり引いていくのかがわれわれの最大のミッションとなる」などと提起した。
 建築家で東工大大学院教授の塚本由晴氏は、「利便性を重視する産業社会的連関が身近な資源、ヒューマンリソースやナチュラルリソースにアクセスする上での障壁になっている」とし、その障壁に「穴を開け、溶かし、崩して身近な資源にアクセスできるプロジェクトをたくさんつくることが大切」であり、「資源へのアクセシビリティからもう一度日本における『コモンズ=共』を考え直さないといけない」と語った。
 日大生物資源科学部教授の糸長浩司氏は「もともと都市と農村は一体であり、二項対立を超克し、シティリージョンからバイオリージョンへ、生態地域的なつながりを再構築することが必要」などと指摘した。
 建築家で法大教授の北山恒氏は「混在型居住の都市が重要な意味を持つのではないか」とし、東京都心周縁部にリング状に広がる約7000haに及ぶ木造密集市街地が持つ可能性に言及。
 東大大学院教授の松村秀一氏は「十分なストックがある現在、生き方に合わせてストックを編集する時代になっている」とし、「人の生き方に結びつく場としての都市」のあり方とともに、「住まいは木のようなものでわれわれがつくることはできないが、良く育つ環境をつくることはできる」として、大野氏と同様に「建築家はこれから庭師を目指すべきだ」とした。
 「低炭素型社会構築のデザイン都市」と題した中村氏の講演に続いて、6人によるパネルディスカッションもあり、最後に中村氏は「小さい経済、単位で考えていくこと、人と人とが一緒にいることの楽しさを分かち合えるような関係をつくられる集合も1つのキーワード。それに庭という概念が絡んでくる。もっと自由で遊べる空間をコントロールできる人を庭師とするならばこれからの建築家にふさわしいのではないか」と締めくくった。
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