2017/02/24

【清水建設】インドネシア初の地下鉄を初のシールド工法で! まっさらな現地技術者に“顔の見える技術移転”


 インドネシア初の地下鉄をインドネシア初のシールド工法で施工する。清水建設・大林組・WIKA・JAYAの4社JVが施工している「ジャカルタMRT南北線 CP104-CP105工区」を含むMRT(大量高速鉄道)プロジェクトは、ジャカルタ市内の慢性的な渋滞の解消と、本邦技術の移転という使命を背負い、市民から熱い視線が送られ続けてきた。シールドトンネルの貫通という大きな山場を乗り越え、工事は最終コーナーに差し掛かっている。写真は解体中の1号シールド機を洗浄する現地作業員

 ジャカルタ市内は、世界的にも有名な慢性的渋滞に悩まされている。市内中心部では、自動車をナンバープレートの奇数と偶数に分け、中心部に流入可能な日を指定する制度の導入により、中心部の渋滞は緩和されつつある。ただ、抜本的な対策には至っておらず、周辺部はいまも深刻な渋滞が続いており、郊外からの流入者の移動手段を公共交通に振り向ける地下鉄の整備は、ジョコ・ウィドド大統領にとっても大きな関心事だ。

シールド1号機が掘削したトンネル
シールド2号機(手前)と1号機が掘削したトンネル(奥)

 清水JVが施工するCP104-105工区で、2機のシールド機が工区最南端の開削部から掘進を開始したのは、2015年10月と同11月。設計施工で受注したため、柱本数を減らして駅部に十分な空間を生み出すことで、シールド機を地上に引き上げずに駅内部でスライドさせられるよう工夫し、コスト・工期の短縮を図った。地層がほぼ粘土層で構成されており、「掘る行為自体は、困難ではない」(JVのトンネルマネジャー・安井工事長)という中、内径6.05mの土圧式シールド機は順調に掘り進んだ。

シールド2号機のカッタービット。ビット交換なしで掘り切った。
シールド2号機の横面

シールド2号機の掘削面(近接)

 ただ、「マシンもセグメントも、見たこともない人に、使い方を教えながら作業した」と、安井工事長は日本との勝手の違いを説明する。シールド1機に1人の日本人専門技術者を配置し、「組み立てから操縦方法、注意点、問題解決方法のほか、うっかりミスや手順忘れなどをなくすために、なぜこの作業をしなければならないのかもその場で教えた」と、来る日も来る日も日本の技術をインドネシア人技術者に伝授し続けた。その結果、掘削終盤の1年間は「ほぼ彼らに任せて、日本人技術者は見ているだけで良くなった」という習熟の早さで、平均月進300m、最大月進400mを達成した。安井工事長は「ずいぶん、たくましくなった」と笑顔を見せ、「5年後、10年後に、彼らが現地の企業でシールド工法を施工できるようになる第一歩になった」と語る。“顔の見える技術移転”の成果が芽吹き始めている。

インドネシア人作業員たち

 駅部では、出入り口とホーム、コンコースの整備が始まっている。北側2駅を担当する坂本雅信工事長は、「思うように進まない」と思った時期もある。着工直後のことだ。道路の中央分離帯の部分に作業帯を確保するため、大渋滞で埋まる上下12車線の道路を約1年かけて切り回した。中央分離帯の植栽を切る許可を受けるだけでも困難を伴った。車道にする歩道部を掘り返すたびに「何か分からない埋設管」が出てくるため、掘るのではなく、歩道をかさ上げすることで対応した。日本では、当然のように存在する「山留鋼材」がなく、日本の企業に協力を仰いで新しく製作し、山留工法の経験がない現地企業のスタッフに一から教えた。次々に降り掛かる難題を乗り越える毎日だった。

2号シールド機の前に立つ坂本工事長(左)と安井工事長

ステアブディ駅のホーム
ステアブディ駅の出入口設置予定個所 清水建設JV

 駅部工事でもインドネシア人スタッフの教育が大きな課題となった。シールド工事は、まっさらな状態の技術者に教えるため「何の疑いもなく覚えてくれる」が、駅部の鉄筋や型枠は現地スタッフも経験がある。だが、経験があるからこそ、“ジャパン・クオリティー”への理解度は低い。低品質な状態で終えようとするスタッフに「あなたたちの国で一番、最初のMRTを造っているのだから、ちゃんと造らないとダメだ」と繰り返し言い聞かせている。

解体中のシールド1号機

解体中のシールド1号機

 今後は、出入り口や換気塔などを歩道に設置する工事が始まる。再び歩道部の「埋設管」が坂本工事長の悩みの種となる。第三者災害につながりかねない埋設管やケーブルがあるため「作業員には、細心の注意を払うよう日々、言っている」

解体中のシールド1号機(解体中のシールド機をここまで近接で見られるのは珍しい)
解体中のシールド1号機

  完成後の歩道は、もともとの片側6mが12mに広がる。地下鉄の整備とともに、地上部の歩道も十分の幅に整う。近隣の移動も自動車を使う習慣が定着しており、歩道が満足に整備されていない市内を、公共交通で移動する新しい習慣に変えていく。第1期完成後にジャカルタ市民は、新しい生活形態を体験することになる。

■2本目のシールドトンネル貫通! ジョコ・ウィドド大統領が視察「非常に感激している」

貫通したシールド2号機の前であいさつするジョコ大統領

 清水建設・大林組・WIKA・JAYAのJVがインドネシアのジャカルタ市内で建設を進めている「ジャカルタMRT南北線CP104-CP105工区」の2本目のシールドトンネルが貫通し、23日、ジョコ・ウィドド大統領を始めとする同国政府関係者や谷崎泰明駐インドネシア日本国大使が現場を視察した。

貫通したCP104-105工区の2号シールド機

 ジャカルタのMRT南北線は、市内の南北23.8㎞を21駅が結ぶ計画で、最南端のレバブルス駅から市中心部のブンデランホテルインドネシア駅を結ぶ15.7㎞が第1期として2019年3月に開通する予定。清水建設JVが施工しているCP104-CP105工区は、第1期のうち、市内中心部の目抜き通り「スディルマン通り」の直下(長さ3.89㎞)にトンネルと4駅(スナヤン、イストラ、ブンドゥガンヒリル、ステアブディ)を構築している。13年8月に着工し、18年12月の竣工を目指す。
 4駅間を結ぶ計2.6㎞の上下トンネルはシールド機2機で掘削。15年10月に掘進を開始した1号機は、17年1月26日に最終到達点のステアブディ駅南端に到達。15年11月に掘進を開始した2号機も、17年2月13日に同駅に到達し、同21日にマシン全体が姿を現した。
 視察後、ジョコ大統領は「貫通したシールドトンネルを見学できて、非常に感激している。今後、工期どおりに終わることを期待している」とコメントした。同大統領の現場視察は今回で5回目。
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