2017/02/11

【金属腐食対策】溶接不要!感電なし! 海洋・港湾施設の電気防食装置をマグネットで取り付け


 海洋・港湾施設の金属腐食対策として普及する電気防食の装置を、マグネットで取り付ける「磁気吸着工法」に注目が集まりつつある。装置は1個当たり最大100㎞にも及ぶ。海上から浮きやクレーンで吊り下げられた装置を、ダイバーが設置個所まで運び取り付けるが、これまでは溶接作業が一般的だった。日本磁気吸着工法協会の伊川辰茂代表理事は「溶接時に鋼矢板が傷付かず、水中感電の恐れもない画期的な方法」と磁気吸着の優位性を強調する。写真は磁気吸着装置の設置状況

 港湾・海洋構造物は海水により、金属部分が腐食しやすい。電気防食は鋼矢板に使われる鉄とその他の金属をつなげることで、イオン化傾向の高い金属(犠牲金属)の方が先に海水にイオンを奪われて摩耗し、鉄の腐食を防ぐことができる。その装置は一般的にアルミニウム合金が使われ、鉄に対して電位が高いことから、「AL合金陽極」と呼ばれている。
 装置の取り付けは水中アーク溶接が中心だが、作業時における感電の危険性とともに、鋼矢板の表面を傷つける心配もあった。実際に釧路沖地震(1983年)や日本海中部地震(93年)では、背後の地盤が液状化して過大な圧力が押し寄せ、厚さ13mm以上の鋼矢板が溶接部分から破断した。

取り付け準備

トラックに積んで搬入する

 磁気吸着の場合は、溶接や孔開けなどの物理的な加工がない。鋼矢板が損傷せず、耐震強度も保てる。吸着強度については、協会が国立研究開発法人寒地土木研究所と連携し、北海道の斜里漁港で実験を行った。冬になるとオホーツク海の流氷が押し寄せ、その衝撃で装置がはがれ落ちる可能性を予想していたが、装置は微動だにしなかった。例年に比べ流氷の量は少なかったものの、「一定程度の強度の証明にはなった」と伊川代表理事は説明する。
 たとえば装置重量が50㎏の場合、磁石の水平吸着力は250㎞と約5倍に設定しており、現在はサロマ湖漁港の電気防食設計に携わっている。設置条件が厳しい北海道各地の漁港で実証実験を拡大する方針だ。磁気吸着装置は、中心部のボルトを緩めることで先端が後退し、板面と磁石が密着する仕組みだ。再びボルトを締めれば先端が突き出し、板面と磁石にすき間ができて簡単に取り外すことができる。従来の溶接設置では、犠牲金属の摩耗の程度を調べる際、一度接着部分を切断し、陸上で海洋生物や藻(そう)類を洗浄して重量を測定する必要があった。磁気吸着方式であれば、簡単に取り外して犠牲金属の摩耗具合を調べることができる。

磁気吸着装置の基本構造

 装置の交換時期は、設計時に取付場所の水の流れの早さなどから算出する。同じ港湾内でも、摩耗が早い場所と遅い場所が出ることもあるが「摩耗度が違うものは交換して使える」(同)。メンテナンス回数を平準化できることも磁気吸着装置の利点だ。
 磁気吸着方式は、既に2つの電力会社の火力発電所内で10年前に実用化された。伊川代表理事は「こうした実績を地道に積み重ねながら、並行して講演や提案活動を続けていきたい」と話す。
 協会は、電気防食技術を鋼製支柱にも広げる計画だ。それは照明灯が倒れ、子どもが指を切断する事故が起きたことから。これは支柱のコンクリート埋設部分と露出部分に大きな電位差が発生し、境界部分の電気イオンが奪われてリング状の腐食が進行した結果だった。既に亜鉛合金の陽極をつなげて腐食を防止する装置「ポールキーパー」を実用化しており、電気防食の技術を、幅広く世の中に生かす活動も始めた。 会員企業は以下のとおり。
 事務局・辰美産業(愛媛県西条市)、ソフテム(東京都中央区)、CRTワールド(埼玉県新座市)、アイビス(札幌市)、川上磁石(東京都北区)、山崎塗装店(福井市)、両備商事(岡山市)、篠原合金鋳造所(岐阜県各務原市)、東洋防蝕工業(愛媛県今治市)、昭希(仙台市)。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【現場の逸品】熱中症対策に! 氷もアイスバッグも冷たくキープする「真空断熱アイスコンテナー」  魔法びんのサーモス(本社・東京都港区、樋田章司社長)が、氷を長時間保つことができる「真空断熱アイスコンテナー」を3月1日に発売する。内容器には氷を30個入れられ、本体には2つの内容器を収納できる。内容器を1つにし、空きスペースにアイスバッグも入れることが可能で、熱中症になった時に体を冷やすこともできる。  熱中症対策としては、体の外からだけでなく、中からも冷やすことが重要であるとの考えから同社では、飲料の温度を5度から15度にして飲むと… Read More
  • 【三機工業】ベルトをボタン1つで自動洗浄! 取り外し不要、表裏同時に洗うコンベヤー  三機工業は、食品工場向けにベルトを自動で洗浄できるコンベヤーを開発した=写真。現在は、ベルトをコンベヤーから外し手作業で洗浄しているが、ボタン1つで裏表を10分程度で洗浄が可能なため、作業時間の短縮だけでなく、洗浄の作業員が不要になり人手不足にも対応できる。2016年4月から発売、初年度は20台の販売を見込んでいる。  新商品は、コンベヤーの内部に水と洗浄剤を吹き付けるノズルを設置、ベルトの表と裏を同時に洗浄する。コンベヤーの長さは1.… Read More
  • 【現場の逸品】もう拭わない! ヘルメット用使い捨て汗取りパッド『吸収男児』 産業用ヘルメットトップメーカーの谷沢製作所が、使い捨てのヘルメット用汗取りパッド『吸収男児』を発売した。猛暑が続く現場の必需品として重宝しそうだ。  ヘルメットを着用する現場作業員にとって、作業時に額から流れ落ちる汗はできれば取り除きたい不快なもの。大手製紙会社と協力し、純国産の本格的な汗取りパッドを開発した。ヘルメットの額部に貼り付けて使う。 高分子吸収材入りのワイドサイズでは110グラム以上の吸収力があり、1日分の汗をしっかりと吸収でき… Read More
  • 【現場の逸品】オフィスの音漏れを見える化! プライバシーや機密守るサービス展開  オフィス内の音が、サーモグラフィーのように可視化できるようになった。コクヨのコクヨエンジニアリング&テクノロジー社(東京都品川区)は、オフィスの雑音や音漏れを音量レベルに合わせて見える化するサービスを、2016年1月から提供する。  顧客に、壁の音漏れを色の分布で見せることで、音がどう漏れてきているのかを分かりやすく説明できる。壁の補強や間仕切りの材質の変更など、具体的な提案に結び付けることが狙い。同社が提供してきた、スピーカーから静… Read More
  • 【ノーリツ】システムバス「Yupatio」の新柄は「ニッポンのおふろ」3種!  ノーリツは、システムバス「Yupatio(ユパティオ)」シリーズの浴室壁の新デザインとして、京都のテキスタイルブランド「SOU・SOU」によるアートウォール3柄を4月1日に発売する=写真。四季を表現した和のデザインで「ニッポンのおふろ」を感じられる空間をつくる。  新デザインは、SOU・SOUの売れ筋デザインをアレンジした「菊づくし 移ろい」や「SO-SU-U」のほか、新たに描き下ろした「富士三景」の3柄。インクジェット技術により四方の… Read More

0 コメント :

コメントを投稿