横浜市は、みなとみらい21地区で「公民連携」をキーワードに持続可能なまちづくりに挑戦している。現在、民間事業者によるビル建設が相次いで計画され、暫定利用を含めれば、総宅地面積約87haのうち約85%に当たる約73.9haの利用が決まっている(2016年11月時点)。こうした中、環境や防災など開発当初には目立たなかった視点を前面に打ち出し「まち」としての魅力を維持、さらには向上させようとする新たな取り組みが始まっている。
同地区の開発は、1965年に横浜市の飛鳥田一雄市長が打ち出した「六大事業」の1つを構成する都心部強化事業の中核的プロジェクトとしてスタートした。
鉄道の結節点として急速に発展した横浜駅周辺と、開港以来の拠点である関内・伊勢佐木町の2つにはさまれた同地区に都心機能を集積することで「都心の一体化・強化」を目指した。
バブル経済の崩壊などで一時、民間開発は停滞していたが、近年、市長によるトップセールスを始め交通利便性の向上、東京都心部と比較して安い地価、市の助成融資制度などが評価され、大企業の本社機能や研究開発機能の進出が相次いで決まった。
旺盛な民間投資を背景に、現時点で市が所有し、利用が決まっていない場所は、みなとみらい線の新高島駅周辺を中心とした一部街区を残すのみとなった。
撮影:フォワードストローク |
六大事業の発表から半世紀。同地区でのインフラ整備や民間開発が一定程度進んだことで「都心の一体化・強化」という当初の大目標は達成したように見える。
だが、地震、台風など自然災害の多発や少子高齢化、グローバル化の流れなど社会構造が目まぐるしく変化を遂げており、市は今後激化する都市間競争なども見据えつつ、同地区のさらなる魅力向上につながる新しい形のまちづくりに動き出した。このかぎを握るのが「公民連携」だ。
選ばれるまちになるべく、市は11年12月に国から「環境未来都市」として選定されたことをきっかけに、環境・社会・経済の3つの側面から新たな価値の創出を目指す『環境未来都市計画』を策定した。同計画のリーディングプロジェクトの1つ「みなとみらい2050プロジェクト」をまとめ、同地区の魅力向上に向けた公民連携の取り組みを加速させた。
同プロジェクトは、強化すべき分野にエネルギーと、グリーン、アクティビティ、エコ・モビリティの4つを盛り込んだ。民間企業と関係区局がプロジェクトチームを結成し、それぞれが有機的かつ横断的に事業を展開している。
都心部における小型の風力発電や緑陰空間の創出、壁面緑化、特色のある芸術フェスティバル、歴史的資産を生かした景観形成、LRT(次世代型路面電車)、水陸両用バス、コミュニティーサイクルなど具体的な事業を展開することで「世界を魅了する最もスマートな環境未来都市」の実現を目指している。
水陸両用バス社会実験 |
ただ、今後、少子高齢化に伴う税収の落ち込みなどで、まちづくりに多額の投資ができない中、これらの事業を確実に推進するためには、投資しやすい環境づくりに向け、ファイナンスなど資金調達についての民間企業との連携・支援の組織・仕組みづくりが欠かせない条件となる。
これまでの「開発」の方向から「マネジメント」に大きくかじを切るには、民間企業などが参加したくなる“インセンティブ”をいかに構築するか。その仕掛けの1つが同地区全体を「環境ショーケース」にする取り組みだ。いわば、まち全体をMICE(研修・視察・会議・展示)施設のように見立て、まちづくりへの参画を促している。
パーソナルモビリティを使用した実証実験『ヨコハマ未来モビリティショーケース』 |
この取り組みなどが徐々に浸透し、現在、5つのプロジェクトチームに22社(延べ47社)が参加するなど、その輪は広がりを見せている。ディベロッパーや鉄道会社、金融業、製造業など日本を代表する大企業が名を連ね、企業間ネットワークを構築しながら、イノベーションを起こし、これまでにない価値の創出を目指している。
インバウンド(訪日外国人客)の増加や19年ラグビーW杯、20年東京五輪の開催など、国内外に同地区の魅力をPRする絶好の機会が間近に迫ってきている。15年2月に策定した都心臨海部再生マスタープランは、従来の横浜都心部の両翼に、新たに東神奈川臨海部周辺地区と山下ふ頭周辺地区を加えた。市の都心臨海部は今後も拡大する。これまでも、これからも都心臨海部の中心となる場所に位置する同地区の先進的なまちづくりの挑戦は、続いていく。
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