大成建設が、横浜市の技術センターを次々に拡充・強化している。前身の技術開発部門発足から59年、競争力の源泉である技術を磨き続けてきた。旺盛な建設需要を背景にゼネコン各社とも技術開発に力を入れ始めている中で、先行するように同社の技術開発の中核はさらなる進化を見せている。写真は技術センターの全景(2014年7月撮影)
技術センターは、2012年7月から施設拡充計画の一環として施設更新を開始し、建設ICT実験棟や津波造波装置、ZEB実証棟などを整備してきた。ことし1月には、約3億5000万円を投じた「風騒音シミュレータ」と「床衝撃音実験施設」の運用を開始した。今春からスマートコミュニティーで活用する固体酸化物形大型燃料電池(SOFC)の実装にも乗り出す。
風騒音シミュレータは、バルコニーの手すりや目隠し用のルーバー、日よけ・意匠用の縦フィンなど建物の外装材に風が当たって「風騒音」が発生する条件を調べ、音圧・周波数を測る。新設の建屋の内部を無響室とし、風発生装置を取り付けた。
風騒音シミュレータ |
04年に風騒音の実験を始めた当初は「(施設の利用が)年間数件あるかないか」(冨高隆技術センター建築技術研究所環境マネジメント研究室音環境チーム主任研究員)という状況だったが、「現在は、特記仕様書で風騒音の実験が求められることもあり、年間10件程度を実施している」とニーズが高まっているため、より現実の環境に近い大型施設が必要となった。施工中の建築物の近隣住民から「現場から大きな音がする」とのクレームを受け調べると風騒音だったことがあり、「強風を受けやすい案件では、技術センターに問い合わせるよう社内に伝えている」(同)という。
こうした状況の背景には、「縦フィンを外装に使用する案件が増え、高層部に強風を受けるタワーマンションも増えているし、発注者の風騒音に対する認識も高まっている」(斎藤祐二建築技術研究所部長兼環境マネジメント研究室長)という変化がある。今後も「物件ごとに外装部材は変化するため、(風騒音実験の)継続性はある」と斎藤室長は自信をみせる。
床衝撃音実験施設は、RCの柱と梁で実際の集合住宅の構造を再現し、振動特性が異なる2種類の床スラブを張って、床仕上げ材などの床衝撃音対策の効果を評価できる。
床衝撃音実験施設 |
この施設が必要になった背景も、風騒音シミュレータと同様にタワーマンション需要の増加や上階の重量床衝撃音対策を求める声の高まりがある。ただ、「これまで集合住宅の衝撃音対策は、厚いスラブの設置など構造で対応してきたが、柱・梁が太くなり建物が重くなるため、免震装置もハイレベルな装置が必要になる。仕上げ材など細かい対策でコストメリットを出す方向に重心を移した」(田中ひかり建築技術研究所環境マネジメント研究室音環境チーム副主任研究員)という点がより重要なポイントだ。建築物の性能競争も難しい中、構造ではなく仕上げ材で音対策ができれば建築物全体のコストメリットが出せる。床衝撃音実験施設は、このシフトチェンジの象徴的な存在となる。
今春の技術センターのスマートコミュニティー化に伴い導入するSOFCは、既存の熱電供給タイプの商用燃料電池にはない出力250kWという大型で、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の研究開発に共同実施者として参加している。経済産業省が進めるエネルギー革新戦略では、「新エネルギーシステム構築」のフェーズ1(17-20年)での燃料電池の実装を目標としており、住宅・建築物における燃料電池使用の分野でトップランナーの地位を築くための投資となる。
同社の技術センター拡充はこれにとどまらず、今後も進化を続けていく。
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