持続可能な循環型資源である森林資源の有効活用や地方創生の観点からも今後さらなる普及に期待がかかるCLT(直交集成板)。昨年4月にCLTを用いた建築物の一般的な設計法等についての告示が公布・施行され、個別に大臣認定を受けることなく建築確認によって建築が可能となったのも大きな追い風となる。同様にこうした導入揺籃期にあった2010年前後の英国でCLT建築物の実プロジェクトに携わった小見山陽介氏(エムロード環境造形研究所)=写真=は、当時の経験も踏まえながら「国産CLTはいまだ完成された技術ではない」とし、だからこそ、建築家がコミットできる余地が大きいと指摘する。その可能性を聞いた。
CLTは、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系面材料。その最大の特性は「広さ」と「厚さ」にある。
「いままでの木造は柱・梁に断熱材や耐火被覆を取り付けたりと部品の点数が多かった。言い換えれば必要な機能の分だけ部品があったわけだが、CLTパネルは広くて厚い面材であるため、構造的には壁柱と床パネルによるシンプルな架構が可能。環境的には1枚で断熱性や調湿性、遮炎性をある程度充足できるほか、そのまま仕上げ材にもなる」と魅力を語る。
現在、国内で複数のCLT建築プロジェクトに設計者として携わる中で、今後の活用拡大へ「2つの方向性」を見いだしている。1つは「CLTパネル工法にはこだわらず、CLTを部分利用によって他工法との組み合わせで使う」ことであり、もう1つは「断熱性能や調湿性能といった木質材料としての性能を引き出して高機能な建材として使う」アプローチだ。
基本構想から設計、現場監理までを担当した7階建てのCLT構造による 低所得者向け集合住宅「Kingsgate House」は、サスティナブルデザイン手法を ロンドンの中心部で建築デザインとして可視化したプロジェクトとして評価を得ている |
厚さ36mmのCLTを在来軸組の構造用面材として利用する「Aパネ工法」を採用し、群馬県内で設計中のコミュニティー施設は前者の事例となる。「壁倍率が高いので壁量が少なくて済み、開口部が大きく取れる」とともに「地元施工が可能。現場合わせしながらカットして組み立てられる」と、その施工性の良さもメリットに挙げる。佐賀県ではCLTを床材に用い鉄骨柱梁との混構造によるオフィスビルの計画も進行中である。
一方、CLTパネル工法により2月初めに竣工した榛名神社奉納額収蔵庫は後者だ。「やはりCLTは基本的にコストアップにはなるけれども、調温調湿性能など付加価値の部分を施主に提案して採用された」という。CLTが素材として持つ環境的な性能を実証するため、今後各種センサーを取り付けて測定していく。
群馬県高崎市にある榛名神社の脇参道に建設された奉納額収蔵庫 (16年11月29日撮影) |
こうした取り組みの根幹には「木材を『新しい技術』として再発見しよう」という思いがある。「CLTはいまだ分からないこともあるし可能性もある。だからこそ設計者がこういうふうに木を使いたいから、こういう材料は作れないのかと提案していける流れをつくる必要がある」と。
国内には現在、6社7工場がJAS(日本農林規格)認定を得てCLTパネルを製造しているが、製造機械の能力や道路運搬上の制約などから製造寸法が決められており、必ずしも現場の状況や建築デザイン側からの要請には応えられていない面もある。
例えば「CLTに携わる設計者と話をすると、他工法での部分利用も視野に入れたときにCLTのどのようなモジュールであれば扱いやすいのかとか、パネルがあと数ミリ厚ければ接合部のディテールをうまく収めることができるのにという話になる」という。
「CLTの製造体制が各地で整備されつつあるいま」だからこそ、設計者の立場からも「できる限り建築における素材としてのCLTの可能性を検証したい。それを製造の場にフィードバックし、ものをつくる過程、新しい材料をどう使っていくかというところにもっとコミットしていきたい」と力を込める。
「原木が取れる場所によって同じ樹種でも木材の性質が違ったりする。地場技術もそう。それを捨象し平均化するのではなく、ちょっとした差異を見つけて繊細につくっていく。新しい技術と在来の技術、それぞれのノウハウや知見を融合していく。可能性はたくさんあると思います」
(こみやま・ようすけ)1982年群馬県生まれ、2005年東大工学部建築学科卒、05-06年ミュンヘン工科大留学、07年東大大学院建築学専攻修士課程修了、07-14年Horden Cherry Lee Architects勤務、14年エムロード環境造形研究所(群馬県渋川市)勤務とともに、15年から前橋工科大非常勤講師、東大T_ADS Technical Assistantを務める。東大大学院博士後期課程在籍。
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