2017/02/26

【本】RC建築による復興論『階上都市 津波被災地域を救う街づくり』 著者・阿部寧氏に聞く


 まもなく東日本大震災から6年になる。
 津波被災地の復興には、防潮堤の建設や被災地の埋め立て、高台移転などが選択されてきた。本書はそれら対策には限界があるという立場。職住機能と防災機能を併せ持つ「階上都市」こそが、理にかなった解決法であると提唱する。頑丈な高床式で立ち上がった高層RC建築。津波が来たら逆らわずに“肩透かし”するこの構え。津波対策への発想の転換を迫る復興論だ。

 書名『階上都市』は、金安岩男慶応大学名誉教授のヒントによるもの。
 巨大津波に人々や街が飲み込まれていく様子をテレビで見て、「人間の歩くスピードで横方向に逃げる限り、津波からは避難できない。上にならば逃れ切れる可能性が増す」直感が本書のもとになった。

建築・街づくり支援センター理事長 阿部寧氏
著者が被災地を訪れたのは2011年10月。がれきの山を呆然とながめ、廃虚となった風景を記憶に刻み付けるなかで、一塊の構造物が目に入る。RC構造物の安定感、可能性がそこにあった。
 国道45号普代バイパスの高架橋は、工事中に震災に見舞われたにもかかわらず、力強く工事を再開していた。また、陸前高田のホテル、気仙沼の沿岸にあった市場も、すぐに機能を回復していた。
 発生したがれきは木片のほか家電製品、家具など多種多様だが、木造家屋が津波に流され壊れていく中で生じたものが多かった。木造をPCの建築にすればがれきも少なくなる道理だ。
 新たな用地を確保するため、多くのケースで切土・盛土工法が選択された。切った跡、盛った先の地耐力が十分でなかったり、地すべりを引き起すこともある。埋め立ては後背地の高台をカットし、その土砂を被災地に運んで整備することから、故郷の風景を壊すことにほかならない。
 著者は防潮堤の必要性は認めているものの、それだけで命は救えないとして、RC建物との組み合わせが不可欠とする。
 階上都市を形成するのは、エコスーパーユニットと呼ぶスケルトン(構造体)とインフィル(内装・設備)に分ける建築。将来、建物の用途変更や改修などが生じた場合、構造体に関係なく、目的に適った改造を可能とする方式で、ヨーロッパでは一般的。
 これをまちづくりにまで拡張するシステムが、道路・共同溝などのインフラ整備を含めた構造体(メインストラクチャー)と、都市単位にまで拡げた東日本ダイナポリス構想だ。(三和書籍 2500円+税】)

■階段学を追究するこだわり
 著者がことしの年賀状にしたためた「階段川柳」3首。
 ・階段の 歴史を刻む 神社かな
 ・階段は 触れて歩いて 楽しげに
 ・階段は 螺旋ですてき 空間が
 階段は学生時代から好きなディテールだ。高所低所を結ぶ手段にすぎないが、意匠や材料、工法次第で空間が一変する。ギリシャ・ローマ神殿、古代・出雲大社などでは、俗界と神域を隔てる象徴に昇華した。そうした魅力と奥深さに惹かれ卒論テーマ(階段の歴史的変遷)に選んだほどだ。「階段展」を開催するなど、いまなお階段学を追究している。

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