2016/10/28

【記者座談会】処遇改善と世代交代が急務 日建連リポート「技能労働者不足に対する考え方」

A 日本建設業連合会が「技能労働者不足に対する考え方」と題したリポートを公表した。でも、公表がなぜいまなのだろうか。

B 外部に対する建設業界の理解促進が大きな目的だと思う。業界内では当たり前のことでも、外部にとっては分かりづらいことはある。その意味で個人的には、統計や数字に基づいて分かりやすくできていると思う。生産供給力に不安がないことをリポートでは打ち出しているけど、ゼネコンの決算と合わせて見るとまた非常に興味深い。
A 具体的には。
C 近年、ゼネコンの決算は大手、準大手、中堅規模まで軒並み好調を維持している。こうした規模群の企業の決算が好調だから、建設市場も旺盛だとみられている。確かに公共土木市場は順調に回復して、民間建築受注額も増加しているが、ゼネコンの売上高や利益を確定する建築着工床面積は、バブル崩壊後のピークだったリーマン・ショック前までの水準に戻っていない。このことは、過去のダンピング(過度な安値受注)競争とその影響の結果、仕事はあっても利益が出ない、まさに「利益なき繁忙」(大手ゼネコントップ)の悪循環からようやく脱却し「値戻しが実現しつつある」(別の大手ゼネコントップ)ことを如実に示している。
A こうしたことを踏まえた発言が20日の日建連首脳会見の発言だったのか。
D そもそも日建連リポートが強調する柱は2つ。1点目は、当面の話として処遇改善すれば供給力(技能労働者)不足の不安はないということ。2点目は中長期の視点で高齢化が進む職人の大量退職に備えた世代交代が急務ということだ。手持ち工事高は積み上がっているけど今後、一気に工事着手のピークを迎える。その場合、一部工種で人員確保に苦慮する可能性はあり得る。ただこれは、現在各企業で作成している現場の作業工程がなんらかの理由で変更を余儀なくされ、結果的に想定以上に作業時期が重なる可能性を指摘したに過ぎない。
A 話を戻すけど、建設業界の供給力に不安がないことを、なぜいま打ち出したんだろう。
E あくまで個人的見解だけど、来年度公共事業予算の抑制を主張する人や組織による「戦略的広報」の機先を制したと言えるのでは。端的に言うなら、再び浮上する可能性が否定できない「クラウディングアウト」論や解散総選挙の可能性を踏まえた公共事業抑制の理由に、人手不足を挙げかねないことに予防線を張った形だ。この先のスケジュールを考えてもタイミングは絶妙だと思う。
D なるほど。国債を大量に発行することで、市中金利が上昇し民間需要を冷え込ませるのがクラウディングアウト。でも建設国債と社会保障費増大などを理由にした赤字国債の合算額のうち、赤字国債は8割以上を占めている。小泉政権時代以降に頻発した公共事業悪玉論や削減を目的にした「戦略的広報」によって公共事業予算は削減の一途をたどったけれど、毎年度1兆円ずつ増加する社会保障費は公共事業費を削減しても賄いきれない。かといって、年明け以降ともささやかれる解散総選挙前に、本筋である社会保障費削減には手をつけられない。国民向けには、増加傾向にある当初予算額削減のPRはしたいということか。
A 皮肉として公共事業削減PRを戦略的広報に例えたのは分かりやすい。でも、政治や行政はそんな短絡的ではないと信じたい。
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