2016/08/25

【オーサカ建築】高岡伸一氏による魅力解説! 第1回「民による民のための建築」


 大阪で初めて開かれる日本建築家協会(JIA)の全国大会まで100日を切った。大会テーマは「笑都大阪」。では、大阪の建築の面白さ、魅力とはどういうところにあるのだろうか。高岡伸一大阪市大都市研究プラザ特任講師が語った“オーサカ建築”の見どころや特徴について、4回にわたり掲載する。写真は大阪市中央公会堂

高岡 伸一氏

 大阪の建築には、意匠的に特に明確な“大阪らしさ”があるわけではない。しいて言えば近代以降、昭和初期まで、大阪の建築は日本をリードする存在だったというところ。1925年の市域拡大によって大阪市の人口が日本一の都市となった「大大阪時代」に都市の近代化が進み、歴史的に価値の高い建築が多くつくられた。
 いまも大阪に残っている歴史的建築物は商家など民間のものが多く、公共建築が多い東京と対極的といえる。官主導の建築は悪くいえば「教科書通り」で、東京帝国大(現東大)を出た立派な建築家に設計を依頼し、彼らがヨーロッパから学んだ様式にのっとった建築をつくっていた。
 一方大阪では、同様に建築家に設計を依頼するにしても施主の意向が強く、建築家はそれを取り入れながら建築家としての個人的欲求も満たす建築をつくっていた。その結果「○○様式」とひと言でくくれない自由な発想の個性的な建築が多く生み出された。

綿業会館

 もう1つ「市民の手によってつくられた」というのが特徴として上げられる。大阪市内にある重要文化財の近代建築に限っても中之島図書館(*1)や中央公会堂(*2)、綿業会館(*3)、愛珠幼稚園(*4)などは公的な施設でありながら、すべて寄付によってつくられた。「わがまちに必要なものは自分たちでつくる」という気概の表れなのか、当時の人たちは「おれたちがつくった建築、まち」と大阪に強い愛着を持っていたことだろう。

 *1 中之島図書館(大阪市北区中之島1)=住友家が江戸時代以来大阪を本拠に続けてくることができた感謝のしるしとして1904年に建設し、大阪府に寄付。設計は野口孫市、日高胖。1922年には両翼部を増築し同様に寄付している。
 *2 大阪市中央公会堂(同)=株式仲買人である岩本栄之助の寄付により1918年完成。設計コンペにより選出された岡田信一郎の原案に基づき、辰野金吾と片岡安が実施設計を担当。
 *3 綿業会館(中央区備後町2)=岡常夫(東洋紡績専務取締役・当時)の遺産や関係業界からの寄付をもとに1931年完成。設計は渡辺節で、図面責任者は村野藤吾。
 *4 大阪市立愛珠幼稚園(中央区今橋3)=園舎は近隣住民の寄付により1901年完成。原案を保母の伏見柳子、設計を大阪府技手の中村竹松と文部省営繕技手の久留正道が担当した。

 高岡 伸一氏(たかおか・しんいち)阪大大学院修了後、1996年昭和設計入社。2004年独立。16年から大阪市大都市研究プラザ特任講師。大阪府出身、46歳。

 日本建築家協会(JIA)建築家大会2016大阪 大阪市中央公会堂をメーン会場に10月27-29日にかけて開催。連続シンポジウムや見学会、セミナー、建築CAFEなどを通じて「笑い」が支えてきた商都大阪に受け継がれてきた文化の歴史物語に改めて目を向け、「繋がる」「繋いでいく」ことの大切さを再認識し、これからのまちのありようを考える。問い合わせはJIA近畿支部・電話06-6229-3371。
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