2016/08/13

【歴史的建造物】明治の赤れんが建築を観光施設に 奈良少年刑務所の保存・活用にコンセッション


 法務省が、奈良少年刑務所(奈良市)の保存・活用に向けてコンセッション(運営権付与)の導入を検討している。1908年に竣工した同刑務所は明治時代の赤れんが造りが特徴で、歴史的・文化的な価値が高い。このためコンセッションでは、民間事業者が外観などを保存した上で改修し、ホテルや博物館、にぎわい施設などの観光施設を整備・運営する計画だ。同省は秋に事業の実施方針を公表し、年内にも事業者選定手続きに入る。2017年夏ごろの契約締結を目指す。写真は庁舎正面(写真は法務省提供)

 奈良少年刑務所は、奈良市般若寺町の敷地10.6haに立地している。延べ2800㎡の庁舎に加え、延べ1400㎡の収容棟が計5棟ある。
 「奈良監獄」を前身とするこの刑務所は、不平等条約改正(明治34年)後の監獄再編で整備された5大行刑施設(千葉、長崎、鹿児島、金沢、奈良)の1つ。このうち建物全体が現存するのは奈良だけで、他の施設では正門など一部が現存するのみだ。
 5大行刑施設の設計は、司法省営繕課長の山下啓次郎が手掛けた。帝国大学工科大学(現東大工学部)で教壇に立った辰野金吾の教え子で、司法省退官後は法政大学工業学校の校長に就任している。山下啓次郎の孫でジャズピアニストの山下洋輔氏は08年9月、「奈良少年刑務所創立100周年記念矯正展」のコンサートで鍵盤を叩(たた)いた。

中央看守所(写真:法務省提供)


 建築物としての歴史的・文化的な価値の高さから、日本建築学会は15年6月、法務大臣宛に「奈良少年刑務所の保存活用に関する要望書」を提出した。一方、文化庁は近代遺跡の調査報告で「竣工時の様態をよくとどめている。日本の近代化の一側面を示す遺跡として貴重」と評価している。このため、「重要文化財の指定が近いのではないか」と見る向きも多い。

表門正面(南側)(写真:法務省提供)

 法務省はことし1月、奈良少年刑務所の保存・活用などに向けた調査をコンサルタントに委託した。「奈良少年刑務所赤れんが建造物の保存及び活用並びに未決区等の整備方法に関する調査業務」として、プライスウォーターハウスクーパースが約620万円で受託している。
 同省によるコンセッション導入に向けた動きは今後、本格化する。近くRFI(情報提供依頼)の手続きに入り、事業化に向けて必要なさまざまな情報を民間企業から集める。例えば耐震改修や事業期間の設定のあり方など、民間から寄せられた具体的な情報を実際の事業に反映させるのが狙い。
 こうした作業を経て同省は事業の詳細を固め、PFI法に基づく実施方針を秋に公表する予定だ。その後、16年内にも事業者選定手続きに着手し、17年夏ごろに契約を結びたい考え。

舎房内観(第3寮)(写真:法務省提供)

 選定された民間事業者は、ホテルや博物館などの利用者から料金を徴収して施設を運営する。ただ、同刑務所が重要文化財の指定を受けた場合は、保存事業に対して国庫補助が交付される。施設の付加価値や事業性を高める上で、重要文化財の指定は大きな追い風になりそうだ。
 築100年を超える建築物に、官民が連携して新たな息を吹き込もうとしている。
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