2016/08/19

【海・山のトンネル】新旧“世界一”のトンネルを語り合う! スイス・シモーニ氏×日本・秋田勝次氏


 世界最長の鉄道トンネルとして、ことし6月に開通したスイスのゴッタルドベーストンネル。その建設と管理を担うアルプトランジット・ゴッタルド社の最高経営責任者であるレンツォ・シモーニ氏を招いたトークイベント「海のトンネル、山のトンネル」が11日、東京都港区の21_21DESIGN SIGHTで開かれた。写真は右からレンツォ・シモーニ氏、秋田氏、青野尚子氏、西村浩氏

 同会場で開催中の「土木展」関連プログラムとして企画されたもので、青函トンネルの建設に長く携わった鉄道建設・運輸施設整備支援機構の秋田勝次新幹線部 参与とシモーニ氏が、前例のない厳しい環境下で新旧の“世界一”を実現した土木技術などを語り合った。
 アルプスを越えて欧州を南北に結ぶ「ゴッタルドルート」は欧州で最も重要な物流ルートの1つ。ゴッタルドベーストンネルは、年々増加する通過貨物量に対応する国家プロジェクト「アルプトランジット計画」の一環として計画され、国民投票で承認された。自然環境への負荷を低減するため、トラックによる貨物輸送から鉄道貨物への移行を促す。その障壁となるアルプス山脈を全長57.1㎞のトンネルで貫く。
 シモーニ氏は「トンネル内の最高地点は海抜550m。斜度も2‰程度と平坦なルートを通ることで貨物列車の重量が増大しても円滑に走行できる」と強調。単線トンネル2本を並列し、これを325mごとに連絡路でつないだほか、緊急時の避難にも対応できる多機能ステーションも設置するなど安全面に配慮した計画の概要などを説明した。
 また、深さ800mの立坑建設や、土被り2500mのトンネル掘削時に岩盤の温度が45度まで上がるといった過酷な環境を克服した優れた技術を説明するとともに、2010年10月15日の貫通式や、ことし6月1日に迎えた開通式の模様なども映像で紹介した。
 秋田氏は、前例のない海底での53.85㎞におよぶ長大トンネル建設に挑んだ青函トンネルの特性や計画のコンセプトなどを説明。その技術的な挑戦は、長大トンネルの調査・掘削技術の確立やトンネル技術者の育成、世界の海底トンネル建設への多大な貢献につながっているとした。
 土木展ディレクターを務める建築家の西村浩氏と編集者の青野尚子氏を交えたトークでは、トンネル建設に取り組む醍醐味について秋田氏が「作業中は狭くて環境も良くないが、貫通するとそれまでの大変なことも吹っ飛ぶ。真っ暗なところが一気に明るくなる。青函トンネルでは先進導坑も本坑も貫通に立ち会うことができ、発破の匂いとともに、本州から北海道に流れる風が体にしみ込んだ」と語り、シモーニ氏も「1世代で完結するのではなく2世代にまたがる、まさに持続可能な開発のあり方を示すプロジェクトにかかわれることは光栄であり誇りだ」とした。
 また単線トンネルが多い欧州に比べ、日本では複線断面としていることについて、秋田氏は「単線で2本掘るより断面の大きいトンネルを1本掘った方がコストは安い」と経済的なメリットを強調。シモーニ氏は単線並列としたことを「次の世代も安全・安心に使えるものであることを重視した。国内で最も安全な鉄道であると言われている」と語った。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【フォトコン】最優秀に南木曽町の「桃介橋」 建コン協が土木施設写真コンテスト 建設コンサルタンツ協会は、「あなたのお気に入りの“土木施設"」をテーマにした、第4回建コンフォト大賞の入賞13作品を決めた。最優秀賞は国指定重要文化財の桃介橋(長野県南木曽町)を撮影した、荻山清和氏の「青春」=写真=が受賞した。同橋は長さ247mの吊り橋で、日本最大級の木橋となる。1922年に竣工、93年に復元された。 審査委員長の伊藤清忠東京学芸大名誉教授は、「ユニークな主塔と高い補剛トラスに囲まれた空間は、青少年の希望と不安に向き合う空間… Read More
  • 【情報化施工】5月17日、宮城で地元建設業向けに実物セミナー JCMA 昨年のセミナー 日本建設機械施工協会(JCMA、本部・東京都港区、辻靖三会長)の情報化施工委員会(植木睦央委員長)は、5月17日に宮城県岩沼市で、地元建設会社向けに「情報化施工」研修セミナーを開く。実際の重機に衛星機器を取り付けて、使用法などをレクチャーするもので、現在参加企業を募集している。 情報化施工は、ブルドーザーやバックホウなどの重機をICT(情報通信技術)で制御する技術。熟練のオペレーターでなくても、正確でスピーディーな土木施工が… Read More
  • 【鉄道工事】新幹線の乗り心地支える新型レール削正車 東鉄工業 新幹線のスムーズな高速走行を支えるために行われるレール削正作業。東日本地域で唯一、新幹線用のレール削正車を保有する東鉄工業は、東日本旅客鉄道(JR東日本)管内の削正作業を一手に担っている。昨年末には、埼玉新幹線機械軌道出張所に新型のレール削正車を配置。同出張所は新型を含め、保有する3台の削正車で、上下線合計約2100㎞に及ぶレールの状態を保っている。 同出張所の担当エリアは東北新幹線東京~那須塩原、上越新幹線大宮~新潟、長野新幹線高崎~長野の… Read More
  • 【土木】上北沢共同溝工事シールドマシンが発進 国土交通省関東地方整備局が進める上北沢共同溝工事の発進式が24日、東京都世田谷区にある京王線上北沢駅前の発進基地内で開かれた。施工者の鴻池組が主催した式典には約40人の工事関係者が出席し、シールドトンネル工事の安全を祈った。  シールド機の発進ボタンを押す 式では、同局東京国道事務所の西尾崇所長、鴻池組の澤井清東京本店長らが発進ボタンを押した。また、西尾所長、澤井本店長のほか、東京電力工務部送変電建設センターの片山正信共同溝グループマネ… Read More
  • 【現場の逸品】大型クレーンも上載可能 仮設橋梁「ストロング」 丸藤シートパイルが復興・復旧工事への対応をターゲットにシステム仮設橋梁「ランドクロス鈑桁タイプ」の改良型商品として『ストロング』のリースを開始した。一般国道106号宮古西道路長沢川橋梁下部工の工事用仮桟橋に採用されたほか、既に20件程度の設計に織り込まれているという。  復興工事では工事用道路や仮設桟橋の施工条件が難関であるほか、狭あいなケースも想定される。ストロングは大型のクローラクレーンの上載も可能で、自走しながら仮設橋梁を構築していく手… Read More

0 コメント :

コメントを投稿