2016/08/09

【国立西洋美術館】関東地整が世界遺産を支える「免震レトロフィット」を紹介


 世界遺産への登録によって改めて脚光を浴びる国立西洋美術館(東京都台東区)。その世界的な評価の影に、歴史的建造物に対する建設産業の挑戦があったことは言うまでもない。1998年の免震改修工事における「免震レトロフィット」の採用がそれだ。その文化的価値は建設産業の技術に支えられている。

 国土交通省関東地方整備局は、世界遺産を支える「免震レトロフィット」を紹介するパンフレット『ル・コルビュジエの想いを受け継ぐ』を作成した=写真。
 設計を担当した、建築家ル・コルビュジエ(1887-1965年)の想いである「無限発展美術館」のデザイン(コンセプト)を、いまも支え続ける免震改修の経緯を伝えている。
 59年に完成した国立西洋美術館は、世界中の建築に大きな影響を与えた建築家の1人、コルビュジエが設計した国内で唯一の建築物。開放的な空間をつくるピロティやモデュロール(人体寸法と黄金比を基にした美しい空間の寸法体系)など、コルビュジエの設計要素が随所に見られる。
 そのかけがえのない空間を守るために用いられたのが「免震レトロフィット」である。きっかけは、数多くの建築物や美術品が被害を受けた93年の阪神・淡路大震災。当時、必要な耐震性能の半分以下の性能しかない状態だったという国立西洋美術館本館は、早急に耐震改修を行う必要があった。
 耐震壁を追加する方法や粘り強さを増すためのブレース補強などが一般的だった当時、これを行えばコルビュジエが構想したその空間構成は損なわれていたに違いない。
 建設省関東地方建設局(現国土交通省関東地方整備局)は有識者委員会を設置して改修方法を検討。文化的な価値と耐震性を両立させる手段として「免震レトロフィット」の採用に踏み切った。
 新築時に用いることが一般的だった免震構法を、既存建築の改修に応用した例は当時、米国で数件が見られる程度だった。設計や工事に当たってはこれまで経験したことのない数々の課題への挑戦があったとされる。
 超高層建築物の設計で使用する各階床位置に質量を集約した「質点系振動解析」に加えて、おのおのの部材の安全性を確認する高度な3次元構造設計を実施。建物におけるすべての構造部材を3次元モデル化することできめ細やかに耐震安全性を確認したという。
 この免震改修が後の東日本大震災で効果を発揮。免震装置によって建物内の揺れは大きく抑えられた。それは、あの「3.11」の揺れに耐えたこと、すなわちほとんど被害がなかったという事実が証明している。
〈施設概要〉
 RC造地下1階地上3階建て塔屋1層延べ3996㎡。設計はル・コルビュジエ、実施設計・監理は坂倉準三、前川國男、吉阪隆正、横山不学(構造)、文部省管理局教育施設部工営課(当時)、施工は清水建設が担当した。
 免震レトロフィット改修の設計・監理は関東地方建設局営繕部(当時)、前川建築設計事務所、横山建築構造設計事務所、施工は清水建設が担当した。


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